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2006年5月28日

(書評)内陸圏・海域圏交流ネットワークとイスラム

内陸圏・海域圏交流ネットワークとイスラム
森川哲雄・佐伯弘次編
ISBN4-88757-107-0
櫂歌書房 2006.5

 九州大学21世紀COEプログラムに基づいて、昨年9月に行われたワークショップでの内容に沿ったもので、「内陸圏・海域圏交流ネットワークとイスラム」のテーマに沿った11の論文が収録されている。社会経済史というような分野に近い内容であり、政治史を中心として、趣味として歴史と付き合っている私には遠い分野であり、学生時代の歴史の授業では文化史と並んで読み飛ばしていたところといってよい。それでも読んでみると得心する部分がかなりあり、今まで知らなかった世界という点で面白かった。以下、興味を惹かれたものについて、つまみ食いして簡単に紹介してみたい。


 「明初中国と中央アジア・西アジア地域との間における外交言語の問題」
 劉迎勝
 中国に来る諸外国の使節が何語を使っていたのか。自国語と中国語を喋れる通訳を使い、文書は漢文でと想像するのだが、日本や朝鮮ならそうなのかもしれない。では中央アジアや東南アジアはどうだったの、といわれると想像もつかない。本論によると、明初期その中心は回回文、つまりアラビア文字によるペルシャ語文書だったという。しかもシャムあたりからの文書についても、回回文だったとか。鄭和が注目されているように、この時代にもムスリムの存在がある。教科書的な知識として、明初といえば東南アジアに本格的にイスラム教が拡がり始めた時代との認識がある。それでペルシャなのかなという点は分りやすく、それでいて面白い。

 「西安清真寺洪武25年聖旨碑」からみた元明期中国ムスリムの変容とネットワーク」
 舩田善之
 チンギス=ハンの時代に活躍した中央アジア出身者というサイイド=アジャッルの子孫に関わる、西安に残る石碑の碑文に基づく論文。モンゴルの時代に周辺から中国に移り住んだ人々はその後どうなったのか、という話は一般的にはあまり語られないところであり、ともすれば元朝の滅亡とともに忽然と消え去ってしまったような印象さえ感じてしまう。元明の交代期を越えて、そういう人達がなおも中国にとどまり、根をおろしていった記録が残っているところが興味深い。
 なお論文本旨とは関係ないのだが、本論中でチンギス=ハン一族の名前に、今までにあまり見たことがない表記がされている。オゴデイをウグデイ、トルイをトロイ、モンケをムンフといったところ。とくに説明がないので分からないのだが、これが今主流の表記、あるいは発音に近い表記ということか?

 「元朝とイル=ハン朝の外交・通商関係における国際貿易商人」
 四日市康博
 元朝とイル=ハン朝の間の繋がりというと、マルコ・ポーロが帰国の際にフビライの命を受けて・・・という話を思い出すが、この話は中国の資料には全く登場しないとか。本論ではこの時代に実際に両朝の通交を担った人々を、東西両方から取り上げて検討している。もともと私が明確なイメージを持っていないので、なにより具体名がいくつもあがるところに率直に驚く。実際に活発な交流があったということである。本論中に紹介されているのだが、両朝の使節のやり取りの中には、フレグ家が中国に持っている領地からの収入の輸送というのが含まれていたとか。形式的なのかもしれないけど、13世紀の終わりになってもそういうやり取りがあるというのは、モンゴルという超巨大国家があの時代にどこまで一つの国として機能し得たのかと、飛躍して考えてもとても面白い。


 本書はごく限られた時代、ついて深く掘り下げたテーマに基づく論文集であり、その意味で自分の興味のある時代地域とはいえ、趣味として読むにはややしんどい。また逆の意味で普段あまり目にしない具体的な話が触れられている点、とても興味深い。テーマ的にともて面白いので、舩田さんや四日市さんには遠くない時期に一般向けの一書を是非お願いしたい。

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