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2006年8月 2日

(書評)民族生成の歴史人類学

民族生成の歴史人類学
満洲・旗人・満族
劉正愛 著
ISBN4-89489-019-4
風響社 2006.3

 この本は、おもに現代の満族の形成過程を多数の証言を基に考察したものである。最初に注意しておかなければならないのは、ここでいう民族とは、本の序文で筆者が述べているごとく、nationやethnicの意訳ではなく、中国の独自性の強いものだという点。とくにここで登場する満族は、独自の言葉、文化、生活習慣をほとんど持っていない。それでも民族と称されるところに、中国における民族の政治性の強さがあるということ。

 日本人にとっては、清朝を作った人々のことは満州族といったほうが多少馴染みがあるだろうか。満州族は漢族とは違ってツングース系の人々であり、もともと女直(真)とよばれた人達といったところか。この本によれば、満族というのはその形成の実体からいえば、満州族とは似て非なるものということになる。現代の満族はそのような満州族の子孫ばかりでなく、清朝の支配集団としてのグループである「旗」に属していたのであれば満族だという。清朝建国前後には様々な人々が新しい政権に参加しており、そのような満州族の人達ばかりでなくモンゴルや漢族なども含んでいた。この政治的な集団が、現代の満族という民族のベースになっているという。しかも、この政治集団が徐々にひとつの文化集団を形成していったというのではなく、1980年代以降の政治の流れの中で急速に膨らんでいったという。政策的に民族が作り上げられた過程そのものであり、民族とは何かという概念がすっ飛んでしまいそうだ。

 この本の面白いところは、多様な来歴を持ちながらも現在では満族として生活している人々の証言を丹念に集めていることにある。民族という問題について、直接現場から集められた情報は、限らず驚くほど多様で面白い。この本もそういう一冊である。部分的には自分のような者には難しい文章が混じるものの、概ね読み易くて興味深い本である。

 清朝史という中国近代史は、どちらかというと自分の守備範囲ではない。その歴史に対する記憶も曖昧で、「旗」というグループが満族、蒙古族、漢族それぞれに八つあったとは記憶していたが、その形成から消滅に至る過程はほとんどよくわからない。この内「満族八旗」「漢族八旗」に加わった人の子孫の話がこの本には含まれている。とりあえず、話は決して単純ではないということ。

 それから、現在の中国において清朝発祥地の象徴とされている、遼寧省撫順市の東にあるヘトアラ城の話もでてくる。今のヘトアラ城は、歴史的な遺跡というものとはおおよそ無縁なテーマパークだったというのが、現地に行かれたマンジュさんから聞いた話だった。この本にはヘトアラ城が観光施設として整備される経過が紹介されている。歴史とは無関係に作られた天守閣という観光のシンボル、かつて日本も歩んだ道を今の中国でも繰り返しているという話とは思うが、規模や影響力の大きさは日本よりかなり大きいと予想される。

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