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2006年9月 9日

(書評)北方世界の交流と変容

北方世界の交流と変容
中世の北東アジアと日本列島
天野哲也・臼杵勲・菊池俊彦編
ISBN4-634-59061-1
山川出版社 2006.8

 2005年8月開催の公開シンポジウム「中世総合資料学と歴史教育−北方世界の交流と変容」の記録集とのこと。11人の著者による発表を再編集したいったところ。掲載順に以下のような内容になっている。

前川要
 中世総合資料科学から見た歴史教科書の問題点---概況と問題提起
佐々木史郎
 サンタンとスメレンクル---19世紀の北方交易民の実像
臼杵勲
 北東アジアの中世---靺鞨・女真の考古学
蓑島栄紀
 史料からみた靺鞨・渤海・女真と日本列島
中村和之
 金・元・明朝の北東アジア政策と日本列島
天野哲也
 アイヌ文化形成の諸問題---歴史教育におけるアイヌ文化の意味
村岡倫
 モンゴル帝国の真実---現地調査と最新の史料研究から
長谷巌
 日本史教育と北東アジア・北海道---日本史教育の立場から
吉嶺茂樹
 「歴史教育者」教育・世界史教育からのコメント
板橋政樹
 日本の歴史教育からみた「サハリンの歴史」
赤間幸人
 高等学校世界史・日本史における北東アジア世界の教材化について

 蒸しぱんさんの指摘にもあるように、「歴史教育」について問題点を上げている章が6つと過半を占めている。

 まず北方の歴史問題を主にあつかった5つの章について、面白かった部分を簡単にまとめる。佐々木史郎氏のサンタン交易時代の実際の交易民達の動向について、臼杵勲氏の遺跡の話を絡めた金朝の動向について、村岡倫氏のモンゴル関係の遺跡・碑文調査の新しい知見など、自分にとっては新しい情報で興味深い部分だ。ただ、本書の企画からいってしかたがないとは思うが、モンゴルや金関係の部分は特に内容が簡潔で物足りない。まあ、引用論文が列記されているので、興味のある部分はそこから踏み込めばよいのだが。


 次に本書の中心でもある歴史教育の部分について。長谷巌氏は教科書におけるモンゴルの扱われ方に触れた上で、

  問題は、記述の対象となっている事柄を通して形成される歴史像が、軍事的側面が強調されたモンゴルの姿とそれをはねのけた日本、という歴史像以上のものでないのであれば、近世以来構築されてきた元冦観は依然克服することができないということである。(本書 P.162)

と述べらている。こういった点に集約されるように、扱う対象の多様化などが問われること自体は理解できる話である。また、その流れの中で本書の対象地域となるエリアについて、視野を広げることが問われるのもほぼ本書の前提ですらある。そこからさらに延長して、赤間幸人氏はそのまとめ部分で

  環日本海世界、さらに北東アジア世界という視野から日本の歴史を考えることで、中学までに学んできた歴史の固定観念を崩し、より柔軟で多角的な歴史的思考力を育み、歴史を学ぶことの楽しさをつたえることもできるのではないかと考える。(本書 P.205)

と提起されている。そうなればもっと面白くなるのかなとも思うのだが、そもそもある程度の通史的な政治史・文化史を知識として把握させることを前提として考えれば、高校の中のたかだか1、2年間の授業時間の中では限界はあるのではないか。さらに受験前提であれば、相対的に影響の小いエリアまでを扱うことは増々厳しいのではないかと想像している。

 自分の経験からいえば、既に歴史を趣味としていた高校時代、受験勉強にしたくなかったので歴史の授業はあえてとらなかった。歴史は奥の深い世界であって一生ものと思っている。

 また周囲に歴史について無関心な人が多いことに、日頃大きな違和感を持っている。そもそも学校は、結果論として歴史嫌いを沢山作り出すことに一番貢献しているのではないか。この根本的な問題が変わらないと、本書のような教育論も一時の話題で終わってしまう。


 最後にこの本についての感想をまとめると、教育問題の部分が多い分期待した部分が薄かったのは確か。また、教育問題についても、まあそうだねえといった程度。いくつかの章はそれなりに面白かったのだが、1冊として見た場合もとが取れているかはやや微妙と思う。

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