« 始皇帝と彩色兵馬俑展 | トップページ | 11月29日購入書籍 »

2006年11月28日

(書評)イスラーム帝国のジハード

興亡の世界史 第6巻
イスラーム帝国のジハード
小杉 泰 著
ISBN4-06-280706-8
講談社 2006.11

 講談社の興亡の世界史シリーズの最初の一冊。しばらくぶりの世界史解説書大型シリーズ。先日も書いたように、通史、全史ではなく絞ったテーマについて詳しく説くことを目指しているものと思う。


 本書の特徴は2点。1点目は、著者がイスラム思想史を専門としていること。その結果として意図されたものと思うのだが、イスラム教成立後の通史というよりは、イスラム教とはなにかを歴史の流れに沿って解説する本、という内容になっていると思う。

 そのために、一番重要となるイスラム教成立に関わる部分、ムハンマドの生涯に多くのページが割かれている。また、個々の事件を深く掘り下げることはあまりなく、その背景や意味を丁寧に解説している。

 ムハンマドに割いた分、時代が下るほど歴史の長さの割に扱いは軽くなる。、ムハンマドを取り巻く人々は多く登場するが、後段はキーとなる政治家、学者などに限られ、本の厚さのわりには登場人物は少ないのではないだろうか。

 アッバース朝の滅亡後は、一気にオスマン朝末期まで飛び、最後の2章で近現代を扱って終わる。思想史というと難しい言葉が並ぶようにも思うが、本書自体はわりと平易な文章で読み易い。


 2点目の特徴は、本書のタイトルにも含まれる「ジハード」という言葉。本書には再三に渡ってこの言葉が登場する。これは、今の日本では「イスラム教」を語ると必ずセットで登場するという状況の中で、「ジハード」という言葉の本来の意味と、その言葉から連想されてきた「戦い、戦う」といったイメージの誤りについて、説くことが強く意識されているからと思う。

 私は「ジハード」という言葉でイスラム教を語ることに強い違和感を持っている。そういう意味もあって、イスラム教関係の本を物色していた中でも、「ジハード」をタイトルに謳った本は避けていた。読後であっても本書にその違和感は残るのだが、それでも説くべき必要があるということなのだろう。


 本書は、イスラム教とはなにかということに力点が置かれている。その分歴史的な事件について、新しい情報や解釈は少ない。その点で詳しい通史、あるいは斬新な解釈を交えた解説書という分類ではない。どちらかといえば、あまりイスラム教を知らない人を対象とした入門書と思う。私にとっては、意外にも久しぶりの初期イスラム教を扱った内容で、すっかり忘れてしまった事を勉強し直すのに手軽な一書だった。

 手軽という点は、歴史ものとしては物足りないということを含んでいる。アッバース朝崩壊後、その外側の南ロシア、中国、東南アジア、サハラ以南のアフリカといった地域にどのように拡大していったのかという点、詳しく触れてもよかったのではないか。また、最後の1章は特に内容が薄いと思うが、この点を扱っている本は他にいくらでもあるからということかもしれない。本書の企画的にはこのくらの軽さ重さでよいということだろうか。


 なお本書は歴史を謳った本であるので、イスラム教の日常的な部分にはほとんど触れていない。イスラム教の理解という意味では、イスラム教徒の生活を扱ったような内容の本を併せて読まれることをお勧めしたい。

|

« 始皇帝と彩色兵馬俑展 | トップページ | 11月29日購入書籍 »

その他の歴史」カテゴリの記事

書評」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/162739/12862893

この記事へのトラックバック一覧です: (書評)イスラーム帝国のジハード:

« 始皇帝と彩色兵馬俑展 | トップページ | 11月29日購入書籍 »