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2007年1月29日

(書評)アレクサンドロスの征服と神話

興亡の世界史 01
アレクサンドロスの征服と神話
森谷公俊 著
ISBN978-4-06-280701-2
講談社 2007.1


 アレクサンドロスと彼が作り上げた帝国に関わる歴史を解説したもの。その原点として、ペルシャ帝国や古代ギリシャから説き起こし、彼の死後、彼を継いだ諸々の国についても言及している。最初でも述べられているが、様々な評価をされているアレクサンドロス像を見直すとともに、彼が起点となったヘレニズムという時代をも見直そうという意欲作。

 著者の作品としては、アレクサンドロス大王(講談社選書メチエ)を以前読んだ。この前著は、アレクサンドロスの対ペルシャ三大会戦を詳細に説明しながら彼の実像を見直すというものであった。本著は、三大会戦については簡単に触れるのみで、東方遠征の背景やその意味、彼の周りの人々などについて解きながらアレクサンドロス像を見直していくという内容になっている。端的にいえば、前著が戦術論にかなり踏み込んでいるのに対して本著は戦略論が中心である。

 主旨としては、西洋史を代表する英雄としての像を否定することが中心となる。また、彼の現代的な見直しの象徴のように使われる、東西文化を融合させようとした者という評価も併せて否定している。では残忍な征服者であったということか。そういう面は否定できないとし征服することそのものを目的とした、

究極の自己中心主義者と言うべきではなかろうか。(347頁)
と、かなり厳しい評価になっている。またヘレニズムについては、ギリシャ文化を一方的に評価するのではなく、インドやペルシャ、そしてローマの影響も無視し得ないとする。


 読後感としては、中国にとって蛮族と表現された遊牧民を、遊牧民の側から再評価た本と同じような印象を持った。ただし、本書はアレクサンドロスへの評価の厳しさの割に、事実を丹念に探ろうとする書き方などから、極端に反対に振ろうとしているという印象はそれほどない。ただし、アレクサンドロスの行動を現実主義的なものとして断定的に書いている部分が、そこまで言い切っていいのかという疑問は残る。

 また、部分的な箇所の指摘になるが、最初にブッシュとイラク戦争を引き合いに出している所、終わりの方でアフガン戦争を引き合いに出して、

アレクサンドロスが古代アフガニスタンのすべての峰と峡谷を完全に制圧したなどというのは、幻想にすぎない。(341頁)
と書いている所など、現代と重ね合わせようという箇所は書き過ぎと思う。後者について言えば、そもそも彼の遠征における征服というものがどういう形でなされたのかという点を無視してこの書き方はないと思う。

 本書は、部分的にこれまでここで扱ってきた本の中では厳しい評価と言えなくもない。しかし、全体としてはむしろ面白かったというのがやや矛盾するが正直な感想。アレクサンドロスの遠征のみを追っている本に比べると、その遠征の背後での様々な人々の存在や、彼の死後に帝国が解体してヘレニズム諸国が分立していく過程の説明などは面白かった。なによりも様々なアレクサンドロス像の中で、実像に迫ろうという姿勢とそのベースとなる豊富な情報分析は肯定して読むことができた。

 類書を多く読んでいるわけではないので、その中での位置付けは言えないものの、主張は明解で読み易く突っ込み所も多く楽しめる一書である。ただし、戦闘そのものの解説は少ないので、そういう内容を期待するのであれば前著を読むことをお勧めする。

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コメント

確かに現代の状況について語る部分とかは、ちょっとどうかな〜という感じでしたね。

投稿: 馬頭 | 2007年1月30日 02時09分

馬頭さんこんばんわ
分析の細かさでやや書き過ぎな部分を補って、感覚的にはバランスが取れている気がしてるんです。
面白かったですよ、確かに(^^;

投稿: 武藤 臼 | 2007年1月30日 23時19分

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