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2007年1月31日

(書評)武士の家計簿

新潮新書 005
武士の家計簿
「加賀藩御算用者」の幕末維新
磯田 道史 著
ISBN4-10-610005-3
新潮社 2003.4

 本書は、著書が見い出した「金沢藩士猪山家文書」の研究を基に、幕末から明治にかけての一武家の生活を解説したもの。

 文書の中心は、1842年から1879年まで、明治維新を跨ぐ前後37年を越す猪山家の家計簿。家計簿といってももちろん今市販されているような縦横に罫線が入った表組のものでなく、草書縦書きで日々の収支を箇条書きしたもの。もちろん数字も漢字。本書によれば、江戸時代の武士の生活に関わるこれ程詳細で纏まった資料は他に無いという。

 本書によると、猪山家は18世紀初から幕末まで、5代に亘って加賀前田家に仕え、御算用者と称される会計事務処理を専業とした下級武士だったとのこと。その5代目の猪山成之は、その能力を買われて維新後、長州の大村益次郎へ推薦されたのを皮切りに、明治政府の中で軍の事務官僚として活躍したという。

 成之は、知行100石前後という似たような下級武士である親類縁者8家の中の出世頭だった。家計簿をつけ始めた祖父の代には家計は火の車で、大きな借金を抱えていた。また、8家の中には、維新によって収入を失って困窮してしまった家もあった。維新前の猪山家の家計の厳しさと、維新後の豊かさの大きな落差は一種のサクセスストーリーなのだが、各種資料から見えて来る姿は算盤片手にコツコツと積み上げた地味なものであるという。一つには、江戸から明治へと有能な事務官僚の地位が一気に向上し時代の流れということか。


 本書を読んで驚かされることは、ここで語られていることが実は今まで断片的にしか分かっていなかったということ。たかだか200年ほど前、下級とはいえ一応武士なのである。その具体的な姿は物語などで語られるほどには分かっていなかったのだという。

 そしてなによりも面白いのはその具体的な中身にある。極めて詳細な家計簿であって、毎年の収入はもとより日々の購入品一つひとつ、更には借金対策で売り払った家財の目録まであるのだ。それをもとにして、一定の格式のもとにある武士としての生活している猪山家の人々の姿が赤裸々に復原されていく。

 50石取りとか100石取りとかいう言葉は江戸時代関係の本で良く見かけるもので、経済的にそれにどのような価値があるのか、一例ではあるが実感を持って読み取ることができる。さらに、収入の元である米が銀貨に換金され、さらに銅銭に両替される。銀1匁が銅銭何文になるのかというような換算表は今までにも見たことはあったが、これほど具体的な例によってその価値を実感したのは初めてだった。

 本書は、一般向けに書かれた新書であって解説書ではあるのだが、物語を読むように気軽に楽しく読める。幕末武士の一実像、幕末維新を乗り切った者の人生、あるいは文献を復原していく実例など色々な読み方ができる。まあ、細かいことはいいので、興味があったら外さないから読んでみてとお勧めする。

馬頭さんのブログにもっと詳しい解説があります。


 余談になるが、著者が古本屋のカタログで文書を発見して店まで走って買いに行ったという話が載っている。最近似たような話を他でも聞いたことがあるのだが、物語というものはあるもの、自分も本屋で人生を変えるような本と出会ってみたいと思ったりする。ひょっとしたら今の自分は、15年前に中国成都の本屋で中華書局本の魏書を買ったところから始まっているのかもしれない。

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コメント

>外さない
そうですよね〜。これは良い本ですよね。
自分はかなり軽い気持ちで読みはじめましたが、大当たりでした。

>出会い
入手したはいいけど、まだ読んでない本がどっさりとあります・・・

投稿: 馬頭 | 2007年2月 1日 03時45分

馬頭さんこんばんわ

>入手したはいいけど、まだ読んでない本がどっさりとあります・・・

ありますあります
まあ・・・当分読み終わることはないでしょ(笑)

投稿: 武藤 臼 | 2007年2月 1日 22時55分

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