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2007年1月19日

(書評)飛竜伝

飛竜伝
宋の太祖 趙匡胤
小前亮 著
ISBN978-4-06-213785-0
講談社 2006.12


 宋の初代皇帝、趙匡胤の生涯を描いた小説。具体的には10世紀中ごろの宋が建国される前、後漢朝初期に始まり、20歳を過ぎたばかりの頃から死ぬまでが描かれている。ただし、皇帝に即位するまでが話の中心で、その後は余談的な内容になっている。

 前著の李世民とは大きく書き方が変わっている。前著は李世民を取り巻く敵味方がサイドストーリーとともに多数登場して賑やかな物語だったが、本著はあくまでも趙匡胤が中心で彼一人を描いたものといっていい。もちろん弟の趙匡義や後周の世宗皇帝柴栄のほか、彼に関わった人物が登場するのだが、彼のストーリーを彩ることに徹していてサイドストーリーはほとんど展開されない。

 趙匡胤がどの様に行動したのかというのを追って行く形で話は進む。契丹、北漢、南唐、節度使の李守貞などが敵として登場し華々しい戦いが語られる。まったく趙匡胤が主役の物語で、契丹とか北漢とかはほとんど具体的にイメージされない。また節度使は、立身する前の趙匡胤にとっては憧れであり、立身後は安定のために削がれるべき課題として語られている。

 脇役でもっとも活躍するのは趙匡胤の義弟で片腕という鄭恩だが、彼の名前は「宋史」の中では容易には見つけられない。架空の人物なのだろうか。確実に実在の人物でもっとも重要な役割をするのが柴栄だ。趙匡胤の人生に大きな影響を及ぼし、幾つかの場面では特異なキャラとして登場する。名君と期待されていながら、その役回りは趙匡胤にとっての反面教師というもの。

 弟の匡義は陰に陽にもっと活躍するものと思っていたのだが、12歳年下の匡義の出番はそれほど多くなかった。趙匡胤の死をどう描くかと注目していたが、余談の余談として病死を暗示させているだけ。弟への譲位についても母親の影響、あるいは柴栄の子が幼少であったことからの流れとして表現されている。それではつまらないとは必ずしも思わないが、暗闘を期待していた分拍子抜けした。


 趙匡胤を含め、人物の性格設定は比較的単純で、強烈に悪でも善でもなくそれなりに暗または明という感じ。その意味で人物描写に奥行きがなく物足りなさにつながるのではないかと思う。緊張感を持って暗躍する人物も登場しない。

 あまり史実を踏み外すこと無く、趙匡胤をストレートに描こうという点は評価できなくはない。また、あくまで歴史小説として中途半端な歴史解説を入れていない点も、前著と同様自分は好きだ。読み易くて結構面白い。しかし、本書からこの時代の歴史に踏み込んでみようという気持ちにはあまりならず、ストーリーとしても奥行きや緊張感が足りない。この点で少し厳しく、物足りない一書と評しておく。

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