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2007年3月11日

(書評)シルクロードと唐帝国

興亡の世界史05
シルクロードと唐帝国
森安孝夫 著
ISBN978-4-06-280705-0
講談社 2007.2

 既に何冊か書かれていてもおかしくないと思うのだが、意外にも著者にとって初めての一般向け著作とのこと。序章のタイトルに『本当の「自虐史観」とは何か』とあり、その中にも「西洋中心史観の打倒」といった項目を立てるなど、やや過激とも取れる言葉が並ぶ。文章のテンポの良さもあり走り過ぎという印象を受けるかもしれないが、内容という点で「西洋史」「遊牧民」「漢民族」などの位置付けは特別奇異というものではない。また、同じ序章の中で特に人種・民族・国家について項目を立ててそれぞれについて説明されているが、とくに民族についての説明は、今の自分には一番しっくりとくる。

 さらに序章27頁で、

 本書の最大にして最終の目標は、西洋中心主義的歴史観からの脱却と見方の大転換を、江湖の読書人と未来の日本を支える学制諸君に促すこと、この一点にある。
と纏められているが、本書は歴史観そのものを説くものではない。タイトルのとおりに唐王朝、その時代の中でも著者が特に真の意味で世界帝国だったと説く、630年に東突厥を滅ぼしてから755年に安史の乱が起るまでを中心として、唐とソグド、突厥、ウイグルの歴史を解説したものであって、旧来の史観に捕われない内容を目指したものということになる。


 本書は通史ではなく関係史といった位置付けが近いのかと思うが、政治史に止まらず社会史や文化史という点からも独立に章を立てて、新しい視点の提供を意図している。そして、新しい研究成果の紹介を中心としていることが本文の一番の特徴で、既に類書や先行書で取り上げてられている点については、必要最小限の説明に留めている。さらにそれらの研究成果についても、著者自身のものに止まらず広く多くの研究者の成果から引用をしていて、明記された引用の多さは一般向けとしてはあまり例がないと思う。

 これらの点は、序章に説明があり全くの確信犯である。序章がともすれば引いてしまいそうな書き出しではあるが、本論はいたって普通の解説書でその解き方には新鮮なものがあり、序章で止まらずに読み進められることをお勧めしたい。

 ただし一つ難点がある。上に書いたように本文には多くの引用があり、場合によって詳細は原文を見るように記されているのだが、その多く(特に新しいもの)が紀要などの市販されていないもので、いち読書人にとって入手が困難なこと。著者の先行研究についても同様な論が多数あり、この点ではソグド、突厥、(東西)ウイグルなどを主題により踏み込んだ一般向け解説書の出版を期待したい。

 あとは細かい感想になるのだが、本書についても断定的な書き方が目立つ点はどうしても気になる。民族などの言葉遣いとともに使う箇所にも気を使われているのは感じられるのだが。また、これは欲張り過ぎかもしれないが、同時代あるいはそれ以後に係るチベットの位置付けについてももう少し言及することはできなかっただろうか。

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