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2007年5月13日

(書評)黄土高原の村

黄土高原の村
---音・空間・社会---
深尾葉子・井口淳子・栗原伸治 著
ISBN987-4-7722-3005-6
古今書院 2000.6

 本書は、地域社会、音楽、建築といった専門をそれぞれに持った著者達が、1990年からの現地調査の成果を95年夏の調査を中心として纏めたもの。調査の対象になったのは、中国陝西省北部(陝北と呼ばれる)、楡林市地区米脂県にある楊家溝という集落。この村が調査対象になったのは、研究調査過程での縁の故であるようだが、黄土高原に刻まれた谷の斜面に窰洞(ヤオトン)の家が立並ぶという、TVや本などから自分がイメージしている陝北の風景に実際に近い集落であるようだ。

 内容としては、村の現代史、生活空間における音について、窰洞について、冠婚葬祭について、雨乞いやさらには人々の関係など文化人類学的な分野多岐に渡っている。窰洞が具体的にどういうものかという点、初めてまとまったものを読んだので、形態的な分類、建築工程、実際の利用のされ方など幅広く触れられていて面白い。窰洞というと黄土を掘抜いて作った洞窟型の住居というイメージがあり、そういう形態のものを紹介した映像を見たことや、洛陽から西安へ向う列車の車窓から見たこともある。しかしここで紹介されているのは(恐らくはこの村での典型的な形態として)、黄土の斜面を生かしながら石と土で作ったドーム型の家で地上式のもの。地下式だけが窰洞ということではないということだった。

 この本を読む切っ掛けのひとつは、その調査地が過去に西夏と宋が争った国境地帯であったこと。米脂県は西夏前期に宋と壮絶な争奪戦を行った銀州(今の横山県東部)と綏州(今の綏徳県)の真ん中にあたる。現代の現地を調査したからといって、この本に西夏の遺跡や西夏人の子孫が出てくるわけではなないのだが、1000年の時代差があるとはいえ、現地の空気感には惹かれるものがある。

 また読み進めるなかで本書の中心となる調査が95年だったという点も興味深い。この点は全く私事なのだが、95年は2度目の長期旅行をした年で、中国では、東北地方、内モンゴル、青海、新疆を回った。上に書いたように本書には雨乞いの話がでてくる。この村は95年に数十年ぶりという深刻な雨不足に見舞われたとのこと。この年東北地方は逆に大雨が続き河川の氾濫が起き、旅行中にそういうシーンに出会うこともあった。一方で内モンゴルは小雨だったようで、7月の初旬というのに草の育ちが悪かったように記憶している。


 内容についてもう少し触れておく。本書は、現地で収集したデータを詳細に纏めた報告書というよりは、調査結果を中心にしながらも、その過程で起きた出来事を長めのコラムとして纏めた読み物という印象を持った。その点で一般向けを意識して書かれているものと思う。内容的な問題ということでいうと、ここで語られているものがどの程度黄土高原全体に対して一般的であるかが全く不明ということがある。事例によっては、この村特有と思われる話も含まれている。現地調査を紹介したものとしては十分に面白かったので、興味がある分についてはより総合的に纏められたものを追跡することが必要になるということだろうか。

 また、この本が纏められたのが7年前で、内容は10年以上前のものとなる。この10年は、中国にとって変化の大きかった10年なわけで、ここで紹介されている村がその後どう変わっていったのかという興味も湧いてくる。機会があれば当ってみたくはある。

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コメント

ちょいと場違いかも知れませんが、「正史西夏伝」開設おめでとうございます~

漢字は作ったんですか?

投稿: 蒸しぱん | 2007年5月14日 23時19分

ども、ありがとうございます(^-^)
とはいえ、終わりのない旅の第一歩の感覚ですが(笑)

漢字は手作りです。
イラストレーターで一個一個作りました。
もっと効率の良い手もあるんでしょうが、これはこれで楽しい(笑)

投稿: 武藤 臼 | 2007年5月15日 00時15分

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