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2007年6月24日

新 シルクロード 第4集

 第4集のサブタイトル荒野に響く声 祖国へ。4集目も変わりがないので、くどくなるが最初に今日の放送の中でのシルクロードという言葉の扱いについて書く。以下は、題字が出る前の最初のナレーション。

 一本の道に100を超える民族が生きるシルクロード草原の道
 その道で祖国を激しく求める声を聞きました
 70年に及んだソビエト連邦の時代、ここは祖国を追われ逃げ惑った人々が通った、失意と悲しみの道でした
 ソビエトが崩壊し国境線が一変してからも、道に生きる人々の問いかけが続いています
 (以下略)

 ここでは、道という言葉を無理に使っているが、かつてシルクロードが通ったカザフ草原とか、面として解釈した方がまだ分かりやすい。100という数がどこまでを数えているかなどはもう問うまい。時代もコサックの話以外はスターリンの頃までしか遡らないので、歴史的なニュアンスのあるシルクロードという言葉に対応していないのは今回も変わらなかった。以下の感想はソ連崩壊後のカザフ、南ロシアにおいて「祖国とはなにか」をテーマとした番組に対してのもの。


 南ロシアやカザフスタンは、自分にとっては中央アジア周辺でとくに情報が少なく知らないことだらけ。その意味では、シルクロードでなくて現地ルポで有効な情報があればそれはそれでかまわない。しかし見ているとどうも疑問ばかりでてくる。

 いきなり細かい話だが最初のカザフのどこかのシーンで、「草原とは名ばかりの荒野」というアナウンスが入いり、以下カザフスタンでは荒野の言葉で通し、ロシアに入ると「風景は荒野から草原へ」変わったという。草原といえども夏以外は草が青々と茂っているわけはなく、馬が駆けるシーンを見る限り枯れ草とはいえ十分に草が生えていた。春先の取材なのだろうか、草が枯れていたからといって荒野と言い通すのはどうかと思う。


 最初は、スターリン時代に中国に亡命したカザフ人の子孫が故郷に戻るという話。地図が間違いなのかアナウンスが間違いなのか地理的な関係はかなり怪しい。加えて同じスターリン時代のこととはいえ、遊牧民の定住化と強制移住がごちゃ混ぜに語られているのはどうも納得いかない。

 朝鮮人、チェチェン人が登場したあと、カザフスタンを後にした取材班はロシアに入ったという。次に登場したのが南ロシアで場所不明のチェチェン人の村。朝鮮人とチェチェン人の開拓村があるという、カザフ東南部、セミレチエ地方のウストゥベからは直線距離でも2500km以上。本当に道を走っていったのだろうか。

 ここでもいろんな人々が登場する、チェチェン人トルコ人コーカサスの民。併記するにはレベルがおかしい。トルコ人とはトルコ系(アゼルバイジャン人とか)なのかトルコ国のトルコ人か。コーカサスこそ多民族の代名詞のようなところだが、チェチェン以外いっしょくたんでいいのか。


 次に「19世紀初頭、ナポレオンと帝政ロシアが激戦を繰り広げた」というドン川が登場し、「帝政ロシアの古都」という街が登場する。ナポレオンは自分には興味の外でほとんど知識がないのだが、ドン川流域も戦場になったのか。それから見ていて不思議だったのは、番組の後半には地図が出ず、街の名前も紹介されず、南ロシアのどこかという以外に見当がつかないこと。

 そのどこかの街では極右化が進行中とのことでコサックが登場し、そのコサックのことをロシア帝国時代には「領土を拡大する直属の部隊だった」と紹介している。領土拡大に貢献したのは知っているが、彼らを直属部隊と言っていいのかはよくわからない。

 南ロシアにおけるナショナリズムの高まりとして、「コサック総数300万人」「コサックの民兵1万人」「チェチェンで戦死したコサック100人」という数字がでてくる。ほかに比較できる数字が紹介されていないので、なんとも微妙な数字だ。極右過激派というのはどこにでもいるが、かくも強調する必要があったのかどうか全くわからない。


 最後に。松井さんが第3集を見られて、ブログ

 インタビュー+ヒアリング主体,観光客がビデオ撮影したのかというような内容.
と書かれている。テーマ設定で旧ソ連の今を世に問おうという姿勢は見えるのだが、今回も松井さんが言われるような作りのまま。刺激的なテーマなのに考証はアバウト、バランスがとれているかどうか不明なのが怖くて内容をそのまま受け取れない。どうも最近のニュース番組に多い不必要なインタビューを多用したインタビュー至上主義がそのまま現れていて、社会的な背景の考証不足はいかんともしがたい。見終わっての不快感は、テーマが刺激的な分前回以上だった。


<参考>
コルガス、カザフ中国国境(南北に流れるコルガス川が国境)、セミレチエ北部、ウストゥベ周辺ドン川河口(Google Map)

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コメント

引用恐縮です。
トラバの当方記事のごとく,今週はOPとエンディングしか見ておりません。
このシリーズ,マジで下調べなしの行き当たりばったりのようで,なんだか学部生の卒業旅行ビデオを見せられているような気になってしまいます。
よくフィールド屋さんが「百聞は一見に如かず」と言いますが,一見しただけでは底の浅い結論しか出てこないという悪い見本ではないかと思います。

投稿: まつい | 2007年6月25日 17時04分

今回から録画するのもやめてます。
会社の金(=強制徴収した視聴料)使って旅行したかっただけなのかも;-b

投稿: 蒸しぱん | 2007年6月25日 23時33分

>まついさん
てっきり二週続けて小松先生などが情報提供されるものと思ってました。
第3集についても取材、編集の能力は問われますが、まだ筋は通っていたように思います。
 「百聞は一見に如かず」
結構好きな言葉なんですが、気をつけないといけませんね。

>蒸しぱんさん
真ん中あたりに書きましたが、まっとうに旅行すらしてないのではと疑ってます。


一夜あけて読み返すと、かなり批判に走った疲れる文章になってますね(^_^;
二週続けて放映後のアップは少ししんどかったですが、次回が9月なのでお互いに頭が冷えていると良いのですが・・・

投稿: 武藤 臼 | 2007年6月26日 00時22分

ディレクターさん、私の所にも取材に来ましたが、まったく反映されませんでしたねェ。
が、外国に行ったことがきわめて少ない私には、それはそれなりに興味深く観られました。「トルコ人」って、メスヘティア=トルコ人のことでしょうかね? 

ところで、林先生のスキタイ(が好きたい!)本を、本日、ワセダの古本屋で1400円で入手しました! また、その古本屋には、先日紹介した宮紀子氏の本も、1600円で出ておりました。発行後、一週間で...

投稿: オセット音楽熱烈愛聴者 | 2007年6月28日 19時14分

>私の所にも取材に来ました
見る前に、カルムイキアがでないかなと淡い期待をしてしまいましたが、やっぱり出なかったですね・・・

>1400円、1600円・・・
いつも不思議に思うんですが、世の中には新刊を読んだ端から売っぱらってく人がいるんですかねぇ

>メスヘティア=トルコ人のことでしょうかね?
これは全く存じませんでした。まだまだ知らないことだらけです

投稿: 武藤 臼 | 2007年6月29日 00時32分

> いつも不思議に思うんですが、世の中には新刊を読んだ端から売っぱらってく人がいるんですかねぇ

 書評流れ、です。
 新聞の書評に取り上げてもらわんがため、出版社が新聞社に新刊を送るのですが、書評委員に取り上げてもらえなかった本たちが、古本屋に流れてくるのであります。
 ジューコーな専門書でも、新聞で紹介されますと知名度がバツグンにあがりますから、「三鳥居」文芸賞を取るにも有利になりますので、最初からソレを狙っているN大学出版会の本は、特に大量に古本屋に出回ってきます。
 ちなみに、モンゴル帝国の西北部を対象とした、かの高額専門書は、出版社が弱小ゆえ、書評用に送られたのは一冊もなく、従って、古本屋に出ることもありませんでした。なお、当該の書が古本屋に出たのは一回だけです。大学を定年退職された教授の所蔵していた本が、YM書店に流れ、定価で売られておりました。

投稿: オセット音楽熱烈愛聴者 | 2007年6月30日 21時53分

驚きました。詳しいですね。
なるほど、古本屋のサイトはもうすこし粘り強くチェックする必要がありそうですね。
送料くらい出るといいんだけど。

投稿: 武藤 臼 | 2007年6月30日 23時26分

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» NHKスペシャル・新シルクロード・第4集 [Abita Qur]
タイトルは「荒野に響く声 祖国へ」. 来月に参院選が予定されていたので前倒しとなったのだろう. 途中で息子を風呂に入れる [続きを読む]

受信: 2007年6月25日 09時45分

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