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2007年6月20日

(書評)現代中央アジア論

現代中央アジア論
変貌する政治・経済の深層
岩崎一郎・宇山智彦・小松久男編著
ISBN4-535-55318-1
日本評論社 2004.8

 

 現代中央アジア解説書としては、もう10年も前のよみがえるシルクロード国家(講談社)以来久しぶりに読んでみた。専門書はともかくとしても一般書やテレビニュースなどのレベルでは、中央アジアの情報は少なく、自分の中の中央アジアはいまだに旧世紀終わりの情報のままに近かった。

 本書は、11人の研究者によって分担執筆された現代中央アジアの事情をソ連時代からの経緯も含めて解かれた解説書である。地勢、歴史を概括した総論を小松氏が担当したほか、各章をそれぞれの著者が担当しているが、たんなる論文集合体ではなく内容の重複を避けたり相互にリンクを貼るなど一冊の本としての纏まりを持たせる作業はかなり行われている。


 少し興味がある程度で情報収集がままならない状態の自分にとって、今の中央アジアはわからないことだらけ。前に読んだ本以降ということでいえば、カザフスタンのロシア人とカザフ人の対立はどうなったのか、優等生といわれたクルグズでもなぜ大統領独裁に向かったのか、3ヶ国が国境を接するフェルガナ盆地の政情はどうか、内戦後終結後タジキスタンはどうなったのか、独自の道を歩むトルクメニスタンはどうなのかなどなど、あげれば疑問はいくらでも出てくる。

 本書はその疑問の全てに答えてくれるわけではない。ひとつには自分の興味が民族問題や政治的な問題に偏っているのに対し、本書が政治制度や経済全般など広範な問題を扱っていることによる。しかしながら、間接的なイメージを得ることができた部分も含めれば大雑把には答えを得ることができたと言えなくはない。具体的な細部にはあまり踏み込まず、5ヶ国の比較や概論を中心とした構成であって、教科書的内容といえると思うが参考文献が明示されているので、より深く掘り下げて行く手がかりは十分にある。自分にその余裕があるかといえば、かなり厳しのだが・・・


 5ヶ国の推移はそれぞれではあるが、急速に自由経済化を進めたカザフスタン、クルグズ、タジキスタンと社会主義体制を温存したウズベキスタン、トルクメニスタンに大別されるとのこと。前者が90年代に大きな浮き沈みを経たのに対して、後者はある程度それをおさえることができたという。また、前者がそれほど飛躍できたわけではなく、後者には停滞があり現状は複雑なようで問題山積であるこは同様であるようだ。

 ロシアほどではないにしろ、カザフスタンは豊富な石油資源があって他の4ヶ国に比べて有利な状況のようだが、資源所有のアンバランスさは今後の中央アジアを見て行く重要なキーワードの一つと思われる。また、それぞれの事情の結果として全ての国で大統領独裁体制が続いてきて、ある程度の安定と引き換えに民主化の停滞を招いているとのこと。本書出版後に2国で代替わりがなされたわけだが、この点で今後どう変化していくかも注目していきたい。


 本書は、300ページと主題からいえば決して厚くない中に要約して纏められているが、ページ数の割に読みでがあり読了までに随分と時間が必要だった。普段あまり関心がない分、経済、農業、鉱業や環境問題についての本書の指摘は大変参考になった。独立後の中央アジアの現状を知るための入門書として、多少苦労しても読んでみる価値は十分にあったと思う。細かい部分では自分の疑問に全て答えているわけではないが、さらに深く掘り下げていくための土台にはなっている。以下、目次を書き出しておく。


総論 中央アジアの眺望:歴史と地域

第1部 政治編 独立国家建設の試練
 第1章 ソ連時代の共和国政治:共産党体制と民族エリートの成長
 第2章 政治制度と政治体制:大統領制と権威主義
 第3章 民族と政治: 国家の「民族化」と変化する民族間関係
 第4章 宗教と政治:イスラーム復興と世俗主義の調和を求めて
 第5章 国際関係と安全保障:地域国際システムの形成と越境する脅威

第2部 経済編 計画から市場へ
 第6章 ソ連時代の共和国経済:計画経済体制下の中央アジア地域開発
 第7章 市場経済移行とマクロ経済実績:分極化するシステム
 第8章 農業改革:市場システムの形成の実際
 第9章 環境問題:「負の遺産」と市場経済化のはざまで
 第10章 世界経済への統合:扉を開く天然資源

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