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2007年6月27日

(書評)スキタイと匈奴 遊牧の文明

興亡の世界史02
スキタイと匈奴 遊牧の文明
林俊雄 著
ISBN978-4-06-280702-9
講談社 2007.6

 

 本書は、騎馬遊牧民の起源と、スキタイと匈奴という古代ユーラシアの東西に初めて展開した騎馬遊牧民の歴史について解説したもの。著者の古代草原の歴史ものという点では、2000年に出版された中央ユーラシア史(新版世界各国史4 /山川出版社)の第一章草原世界の展開を発展させた内容になっている。近年著者が継続されているモンゴル高原での古墳発掘をはじめとする近年の考古学の成果や、東西の文献の紹介とその検証を加えて、遊牧騎馬民が古代史において大きな勢力に発展して行く歴史を総合的にあつかったものとなっている。


 スキタイについては、発掘された古墳の比較、動物文様についてギリシャなどの影響を含めた文様の変遷を詳しく紹介されている。さらにギリシャやメソポタミアでの記録、ヘロドトスなどが書き残した起源神話の比較検討などによって、著者が前著から展開されているスキタイの東方起源説を補強するものになっている。

 匈奴については、司馬遷の史記と班固の漢書をベースにあまり穿った見方をせずに編年史として解説している。さらに考古学の成果が加え、匈奴の王墓、匈奴勢力圏内における定住遺跡、かつて李陵の館として紹介されていたが実は李陵とは関係ないことなども解説している。


 本書で展開されている内容の中では、スキタイの起源の問題のほか、騎馬遊牧という形態の起源が農耕などに比べて新しくせいぜい3000年前ということ、匈奴の勢力下での漢族の活躍などが特に記憶に残った。また、フンについて一章を設けて簡単に歴史を紹介しているが、匈奴との関係については、340頁で

 天山、カザフスタンあたりに本拠を置く遊牧民集団が、かなり短期間のうちにカスピ海から黒海北岸にまで進出したということは推測されるが、それ以前にモンゴル高原と関係があったかどうかについて言及するには、まだ証拠が不十分と言わざるを得ない。
 と書かれていて、前著からの慎重な立場を崩していない。

 本書には、定住地域で書かれた文献を逆読みして新しい視点を展開したり、少ない発掘成果から仮説を広げるような奇異さはない。その意味では最近の草原ものの一般書としては相対的に穏やかな内容だが、東西の文献を広く用い、なによりも考古学についての詳しい解説があり、単純に入門書というよりも内容の広がりを楽しめるのではないかと思う。

 自分にとっては特に前著の内容が既に忘却の彼方だったこともあり、馴染みの薄いスキタイの部分はかなり興味深く読めたが、触れる機会の多い匈奴の歴史についてはやや退屈に見えてしまうのはやむを得ない。匈奴とフンの関係については、今の自分には一番支持できる結論である。


 以下に本書の目次を転載。来月の配本はケルトの水脈。少し興味を惹かれるもののとりあえず買わないつもり。

第一章 騎馬遊牧民の誕生
第二章 スキタイの起源
第三章 動物文様と黄金の美術
第四章 草原の古墳時代
第五章 モンゴル高原の新興勢力
第六章 司馬遷の描く匈奴像
第七章 匈奴の衰退と分裂
第八章 考古学からみた匈奴時代
第九章 フン族は匈奴の後裔か?

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コメント

安心できそうな内容ですね。
私のように基本のなってない人間がいきなりうがった見方を読んじゃうと、簡単にトンデモになっちゃうから危ないっすよね(笑)。
読んでみよっかなー(影響受けまくり)。

投稿: 雪豹 | 2007年6月28日 20時15分

自分は石人のほうは買ってないんですが、そっちはどうですかねえ

投稿: 武藤 臼 | 2007年6月29日 00時34分

読むの早いですね〜。
私も今日手に入れて読み始めてます。ページ数的にちゃんと半分がスキタイというのが嬉しいです。

投稿: 馬頭 | 2007年6月29日 02時24分

この位の濃さ、厚さ、重さがちょうど読みやすいですね
電車の中でも眠くならずに読めます

>ページ数的にちゃんと半分がスキタイというのが嬉しいです。

それはいえてます
自分はギリシャやペルシャの文献からは遠いんでなおさら

投稿: 武藤 臼 | 2007年6月30日 00時28分

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гунн ぐーん  フン、フン族。岩波露和辞典に 「(文化財を破壊する)野蛮人. [続きを読む]

受信: 2007年6月28日 22時05分

» 古代ユーラシアを席巻した遊牧民の興亡を紹介する。林俊雄『興亡の世界史 02 スキタイと匈奴 遊牧の文明』 [クワルナフ・ブログ]
『興亡の世界史 What is Human History? 02 スキタイと匈奴 遊牧の文明』 (林俊雄。講談社。2007年。2300円。印刷/大日本印刷。製本/牧製本印刷)スキタイだけで半分、匈奴だけで半分という、私にとっては嬉しい一冊。どうやら基本的な情報がメインらしいのですが、あま..... [続きを読む]

受信: 2007年7月 5日 05時11分

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