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2007年8月27日

夏王朝(感想)

夏王朝
中国文明の原像
岡村秀典 著
ISBN978-4-06-159829-4
講談社 2007.8

 本書は、2003年に出版されたハードカバー版夏王朝---王権誕生の考古学(講談社)の文庫化版である。宣和堂さんがブログで紹介されていて、ハードカバー版出版以降について補論があるというので買ってみた。補論は、「夏王朝研究の現在」のタイトルで37頁、1割以上の書き足しとなっている。この補論では、2001年に公表された戦国時代楚の竹簡『容成氏』の紹介と、二里頭遺跡、王城岡遺跡、二里岡時代の鄭州城遺跡における成果が紹介されている。なお、あとがきを含めて補論以外は特に加筆はされてないと思われる。


 旧版から3年以上経ち記憶もほぼ無くなっているので、補論のほか本文も斜め程度ながらざっと読み返してみた。以下、本書の簡単な概要と感想を紹介してみる。

 本書は、文献史学と考古学の両面から中国最古の王朝とされる夏王朝について紹介しているもので、最近の研究動向の紹介に留まらず研究史を含めたわりと地道な解説書であって、○○は実在した!的な奇書珍書の類いではない。最初の2章が文献史学の部分。史記や尚書の内容を紹介するだけでなく、春秋左氏伝や竹書紀年など種々の文献の比較や現代の研究の紹介など幅広く扱っている。3章から6章にかけてが考古学の部分で、殷墟、仰韶、龍山などの研究史を押さえた上で夏王朝研究の中心となる二里頭遺跡を中心に考古学の成果を紹介し、そこからなにを読み取るか筆者なりの検証がなされている。

 現在、殷墟の甲骨文より前、つまり殷後期よりも古い文字資料はまだ見つかっていないし、見つかる可能性は低いと考えられている。その意味では、夏という自称や禹から桀へ到る系譜を記したような一次資料で、史記にあるような夏王朝の存在が証明されることはありえない。筆者もそのことは十分に承知していて、その前提で殷以前の歴史をどう構築できるかという話になる。

 上に書いたように本書の中心は、二里頭遺跡の中身をどう評価するかということにある。筆者は、鄭州城遺跡と偃師城遺跡が殷初期の都城であることを妥当として、二里頭遺跡を夏王朝の都であるとする。その上で筆者は、4期に時代区分される中で王朝と呼ぶに相応しい施設を残すのは3期、4期のみで、その存続期間は100年ほどだという。ここらへんの姿勢はいたって慎重で、その後の考察も含めて本書の興味深い部分であり自分には好感がもてる。ただ本書の読後であっても、私自身はより慎重を期して文献史学と一定の距離を置くという意味も込めて、殷に先立つ国(あるいは王朝)として先殷国家(王朝)と呼ぶべきではないかという考えが捨てきれない(先には先の先という可能性を含めて)。


 本書は、夏王朝がどういうものかを説く興味深い内容を多々含む読み易い解説本である。内容的には従来の日本国内の状況よりは夏王朝の実在について肯定的な評価をしているようだが、中国での評価とはそれなりに距離を取って独自の評価をしている点好感が持てるのではないか。

 遺跡発掘の盛んな今の中国の状況では、本書の補論に紹介されているように、新しい発見や研究の深化によって昨日の説が明日には古くなる可能性をたぶんに秘めている。その意味で今後の進展を楽しみに待ちたいと思う。


Google Map → 二里頭遺跡偃師城遺跡鄭州城城壁跡

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コメント

はじめまして。
先殷国家って呼ばれると、夏の人(がいたとして)が怒ってしまうかもしれません。
たぶん国家は殷の創造物じゃないぞと文句言ってくると思うのですが、夏代に生きた老人とかに会いに行かなきゃ・・・ドラえもん欲しいですねぇ

先秦とか先某という言葉は、実態を現す言葉としてどうなんでしょうね。
先カンブリア紀とかもそうですか。
我々現代人の立場からすると、まずはそう呼ぶしかない、そう呼んでみようというところですかね。

投稿: 巫俊(ふしゅん) | 2007年8月29日 16時21分

巫俊さん、こんばんわ

>先秦とか先某という言葉は、実態を現す言葉としてどうなんでしょうね。

殷よりも古い国があったということには異存はないんですね、
ただ、いわゆる「夏王朝」かどうかはわからない!
・・・というところを強調しておきたいんですね、自分的には。
なので、「仮称 夏王朝」でも「初期王朝」でも「古王国」でもなんでもいいんです。
「夏王朝」といって史記が語るような国があったのか!
・・・というイメージを避けたいということです。

>ドラえもん欲しいですねぇ
それは・・・欲しいですね
タイムマシン以外にもいろいろと(笑

投稿: 武藤 臼 | 2007年8月30日 02時30分

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