« (書評)モンゴルとイスラーム的中国 | トップページ | 防衛次官人事 »

2007年8月13日

(書評)モンゴル帝国が生んだ世界図

地図は語る
モンゴル帝国が生んだ世界図
宮紀子 著
ISBN978-4-532-16585-7
日本経済新聞社 2007.6

 本書は、15世紀初頭の朝鮮で権近によって作られたという混一疆理歴代国都之図について、その来歴を様々な資料を駆使して解き明かしていくもの。混一疆理歴代国都之図は、龍谷大学所蔵のものが古くから知られていて本書でもこれが起点となっている。(龍谷大学所蔵の図はこちらで見られる。この龍谷大のページの下に11月公開とあるので一瞬喜んだのだが、残念ながらこれは一昨年のこと。朝日新聞の記事によれば、2009年完成予定の龍谷ミュージアムで公開予定とのこと。)

 この地図のことについて初めて知ったのはもうだいぶ前のことで、テレビのニュースかなにかで見たような気がしているが記憶が定かでない。ただ、そこで紹介されているのは、龍谷大所蔵の図とは少し版が異なる長崎県島原市にある本光寺所蔵のものであったのは覚えている。本書によれば、本光寺所蔵の図は1988年に見出されたものとあり、龍谷大蔵のものと並んでこの世界図の来歴を調べる上で需要な一図をなしている。

 この世界図の来歴について、本書では朝鮮と日本を除く中国からアフリカ、ヨーロッパに至る部分について、明朝初期の中国の清濬と李沢民とが作ったという地図に求め、さらにそのおおもとをモンゴル帝国時代に求めている。直接の根拠となる図版はあまり無いものの、過去に存在したと思われる多くの地図を引用したと考える文献をもとに推測している。本書ではその文献というものがおよそ沢山出てくるため、とても一度読んだだけではその関係が頭の中で整理しきれず、書名も覚えきれない。ただ、目次にも引かれているように、13世紀末ないし14世紀初頭に刊行されたという事林広記は、ポイントとなる重要な一書であるらしい。


 この世界図を初めて知った時は、既に杉山正明氏や岡田英弘氏が説かれていた「世界史はモンゴル帝国から」というフレーズに感化された後だったこともあり、この地図がそのことを一種ビジュアル的に物語っていると思われた。本書はようやく出された詳細な解説書であるのだが単に来歴を探るだけでなく、その根拠となる時代背景の解説がなされていてる。一部にやや断定が強すぎるのではと思われる箇所もあるが、それは些細なことかもしれない。

 読後感として論文集的な重さが少しあるのだが、考証とその流れにはなにか推理小説を読んだような趣きがあり、単なる学術書ではないものを目指した著者の意欲を感じてしまうのは自分が整理しきれていないためか。整理しきれていないという点では、難解な文献名が多々並ぶ点で、文章の善し悪しではなく内容の展開的にやや難しい内容に見えてしまう。そのため本書での検証の段階がどの程度のレベルでなされているかも自分には判読しがたい。ただ自分にとっては、歴史、地図、モンゴルという文字が並んでいるだけで十分に心躍るのだが、本書は全般カラーページとして様々な図版が掲載されていて、見ているだけで面白い一冊だった。

 今後の展開として希望を書き加えれば、この世界図に書かれている情報をより詳細に検討したものを期待したいと思う。本書は、「世界地図」の誕生に続く地図は語るシリーズの2冊目。3冊目は杉山正明氏執筆のアジアは世界を知っていたとのこと。楽しみに待ちたいのだが、杉山氏の著作としては興亡の世界史シリーズ第9巻とどちらが先になるのだろうか。


以下に目次を書き出しておく。

プロローグ「混一疆理歴代国都之図」をたどる旅
第1章 二枚の原図をもとめて
 1 清濬と「混一疆理図」
 2 李沢民と「声教広被図」
第2章 世界はわれらのもの---モンゴル朝廷の「地図」プロジェクト
 1 天文観測と暦
 2 東西世界の合体
第3章 「中華」の伝統と新たな世界像
 1 清濬たちの参考書---モノクロームの地理情報
 2 『事林広記』の世界---国と時代を越えたベストセラー
第4章 王権の象徴として---「混一疆理歴代国都之図」の誕生とそのご
 1 高麗の遺産
 2 朝鮮から日本へ---江戸幕府と世界図
エピローグ いつか来た道・あらたな地平

|

« (書評)モンゴルとイスラーム的中国 | トップページ | 防衛次官人事 »

中央ユーラシア史」カテゴリの記事

書評」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/162739/16092806

この記事へのトラックバック一覧です: (書評)モンゴル帝国が生んだ世界図:

« (書評)モンゴルとイスラーム的中国 | トップページ | 防衛次官人事 »