« (書評)古代メソアメリカ文明 | トップページ | 周山城 »

2007年9月22日

(書評)植物の生存戦略

朝日選書 821
植物の生存戦略
「じっとしているという知恵」に学ぶ
「植物の軸と情報」特定領域研究班 編
ISBN978-4-02-259921-6
朝日新聞社 2007.5

 本書は、文部科学省科学研究費補助事業の特定領域研究の中のひとつ、植物の軸と情報について研究班が、研究の成果について一般に発信することを目的に纏めたもの。あとがきによれば、研究者自らの執筆ではなくてサイエンスライターが取材執筆したものを各研究者が監修校正したものであるようだ。

 10の研究テーマは下記目次のとおりだが、各章単位に書かれたもので全体としては必ずしも脈絡があるわけではない。これらのテーマは、新しい発見というものでなく高校生物レベルで教科書に載っているような植物の機能について、実際にそれが具体的にどのような仕組みで成り立っているのかを、細胞、遺伝、分子というレベルで解明して行くというもの。

 例えば、5章の受精のメカニズム。花粉が雌しべについて花粉管を延ばして受精するという仕組みは、高校生物で習ったとおりだが、その仕組みはこれまで断片的な状況証拠の集合として推測されていたにすぎなかったとのこと。本書では、実際にその一連の流れを動画として観察することに初めて成功したのだという。また、単に観察したに留まらずその過程を何が動かし制御しているのかということにも踏み込んでいる。

 このように、入り口はごく普通に高校生物レベルでその意味で懐かしい内容で、そこから入っていく先はかなり最先端の話というもの。この平凡な入り口と奥行きの深さが本書の面白さのひとつと思う。その意味でも大変楽しく読むことができた。タイトルだけ見ると、植物は何故動かないのかというようなやや哲学じみた内容も想像できるが、本書は極めて具体的な一般向け研究報告であって、科学雑誌の特集記事の集合体といってもよいような内容である。


 本書は、一般読者を強く意識して分かり易く、平易なものになっている。書き方も仮説を順に検証して行くというものでなく、どちらかというと研究の流れを追って行くという形に近い。専門用語は出てくるが多用されるわけでもなく、説明もされているのでそれほど問題にはならない。とくに突っ掛かることもなく楽しく読むことが出来た。

 研究の性質上内容は現在進行形的な新しい話であって、話題によってはまだ結論が出るまえの生情報という趣き。こんな研究をしているのかという面白さが先に立つが、もう少し結論に近い話が聞きたいという不満は残る。どちらかというと、生物系を志す中高生が一番の読者と思う。また、特定領域研究絡みで一般読者を強く意識した本を出した姿勢は強く支持したい。ただ、HPの更新がされてないのはちょっと気になる。


目次

1章 植物と動物 どこが違うのか
  田坂昌生
2章 葉の形を決めるもの
  塚谷裕一
3章 花を咲かせる仕組み 「花成ホルモン」フロリゲンの探索
  荒木崇
4章 遺伝子の働きによる花の形づくり
  平野博之
5章 受精のメカニズムをとらえた!
  東山哲也
6章 根 植物の隠れた半分
  深城英弘
7章 根における共生のいとなみ
  川口正代司
8章 4億年の歴史をもつ維管束
  福田裕穂
9章 成長をつづけるためのしたたかな戦略 頂芽優勢
  森仁志
10章 「第2の緑の革命」に向けて
  芦苅基行

|

« (書評)古代メソアメリカ文明 | トップページ | 周山城 »

書評」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/162739/16539970

この記事へのトラックバック一覧です: (書評)植物の生存戦略:

« (書評)古代メソアメリカ文明 | トップページ | 周山城 »