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2007年9月27日

(書評)武田信玄と勝頼

岩波新書 1065
武田信玄と勝頼
---文書にみる戦国大名の実像
鴨川達夫 著
ISBN978-4-00-431065-5
岩波書店 2007.3

 武田信玄と勝頼が発給してた文書より、彼らの実像を探ろうという一冊。タイトル的にはそういう本だが、全5章の内最初の3章が主に信玄が発給した文書を基に、戦国時代に武将が発給した文書の形式や読み取り方を解説したもので、戦国時代文書入門といったもの。後半2章がその内容から何が読み取れるのかというもので、4章が信玄の人となりを読み解くもので、5章がより政治的な歴史解釈として当時の信玄、勝頼を巡る情勢について、文書から何を言うことが出来るのかというもの。

 文書入門の部分では実際の書面が複数紹介されていて、どういう紙に書かれ、どの様に書かれているか、さらに真贋の見分け方や書かれた年の推定なども解説している。ついで文面をどう解釈するのか、相手の身分などによってどう書き分けていたのか、花押や印判をどう使い分けていたのかなどに触れている。この中には実際の信玄発給とされる文書が取り上げているが、たんなる解説に留まらず著者による解釈の見直しが複数盛り込まれている。

 4章では、信玄が自ら書いたと思われる文書を取り上げて、右筆を介さずに自筆で発給することの意味、彼の性格や人間関係、中でも春日虎綱を巡る三角関係に関わる文書などが紹介、解説されている。5章は、駿河攻め、遠江、三河攻め、勝頼による継承に関係する文書の紹介とその解釈になっている。とくに5章における解釈は、従来言われているような老獪な軍略家たる信玄による必然的な駿河併合と西上戦のようなイメージとは180度近く異なるもの。少なくともある程度はそう言えそうに思える説得力があり、とくに西上戦と言われてきたものが過大評価だったというあたりはとても興味深くかつ説得力がある。


 本書は、半分以上が文書とはどういうものかという解説であって、実際に信玄を巡る政治的な問題を大きく取り上げているのは5章のみ。その点で戦国大名の実像に迫るというには量的に物足りない。とはいえ、当時の文書の解釈に立ち入って歴史を見直すという世界に立ち入っていない自分には、前半の部分だけでも十分に面白く踏み入ったら面白そうと思わせる内容である。

 後半部分の内容の不足については、筆者も自覚していてなおかつ意欲が見られること。さらに、このように基礎資料を丹念に検討した上での冷静とも大胆とも取れる解釈にはとても興味深いものがあり、筆者の次回作を大いに期待しておきたい。

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