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2007年10月21日

(書評)天皇陵論

天皇陵論
聖域か文化財か
外池昇 著
ISBN978-4-404-03478-6
新人物往来社 2007.7

 月刊歴史読本(新人物往来社)に2005年から06年にかけて連載されたものを加筆集録したもの。天皇陵論というと、どの前方後円墳がどの天皇のものかという古代史論が面白いところだが、本書は古墳ばかりでなく、明治、大正、昭和に至までの歴代天皇陵や聖徳太子などの皇族の陵墓も対象として、それらが今までどう扱われてきたか、これからどうあるべきかという話で、江戸時代以降の話が中心となる。

 内容は下記の目次のとおりで、少し紹介を加える。第1章は、今日見られる陵墓の姿形と誰の陵であるかということは、19世紀以降の土木工事と論争を経たものであるということ。第2章は、天皇陵を巡る様々な問題について異なる角度から代表例を紹介したもの。第3章は、一度決定されたものであってもその後改められたり否定されたものがあったという話。第4章は、皇室、宮内庁における祭祀を採り上げたもので、陵墓が宮内庁によって皇室の祭祀の場として管理されているということから押えておくべき点ということ。第5章は、筆者が事典陵墓参考地---もうひとつの天皇陵(吉川弘文館)で紹介している陵墓参考地がどういうもので、どういう意味を持っているかを纏めたもの。これらを踏まえて副題と第6章にあるように、現在宮内庁によって文化財であることを否定されている天皇陵について、その問題を問い直すという所に至る。


 天皇陵、とくに古代の陵墓について発掘の可否を問う話は新しい問題ではなく、長く議論されてきたものである。また、神武天皇陵や仁徳天皇陵を巡る話、文久の修陵についての話など、既に筆者や本書にも引かれている森浩一氏ほか幾人によって考察、発表されてきた内容で必ずしも新しいものではない。また、比定の上での問題などを網羅しているわけでもない。

 本書はその上で、宮内庁が主張してきた祭祀の問題、陵墓参考地の問題を加えて、「聖域か文化財か」という論の上で必要な要点を総合的に纏めている。もう少し宮内庁を攻撃するような文言が含まれているかとも思っていたが、文章的には押え気味で思いのほか穏やかである。ただ、宮内庁管理の問題点を穏やかに指摘した上で、文化財として扱うことは祭祀と両立するものであって、公開は必要であるとしている。

 日本の古代史を考える上で、巨大な前方後円墳に誰が葬られたのかというのは避けて通れない問題であって、いろんな論を読んだり、古墳を実際に見て歩いたり、素人考えながら自説を展開してみたりと興味の尽きない世界である。その意味でも、天皇陵が早期に調査研究されることを願って止まない。そんな自分から見て本書は、発掘や比定、宮内庁の問題を含めた天皇陵全般を考える上での基本的な問題点を纏めたお薦めの一冊と評価しておく。


<目次>
はじめに---天皇陵と宮内庁---
第1章 創られた天皇陵
 1 江戸時代の姿
 2 文久の修陵
 3 神武天皇陵はどこに
第2章 天皇陵決定法
 1 仁徳天皇陵の探しかた
 2 決定陵と未定陵
 3 聖徳太子墓の謎
 4 明治天皇陵の謎
 5 「皇室陵墓令」と大正天皇陵
 6 長慶天皇陵を探せ
第3章 天皇陵の改定・解除
 1 天武・持統天皇陵の改定
 2 豊城入彦命墓のゆくえ
第4章 天皇による祭祀
 1 祭祀の真相
 2 式年祭とは
第5章 もうひとつの天皇陵
 1 昭和二十四年十月『陵墓参考地一覧』の発見
 2 安徳天皇陵と陵墓参考地
 3 陵墓参考地の断面
第6章 聖域か文化財か
 1 陵墓と文化財
 2 天皇陵研究法
おわりに---「聖域」としての天皇陵---

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