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2007年10月28日

(書評)大清帝国と中華の混迷

興亡の世界史17
大清帝国と中華の混迷
平野聡 著
ISBN978-4-06-280717-3
講談社 2007.10

 私はまだ未読なのだが、清帝国とチベット問題(名古屋大学出版会)を世に出した著者が、どういう内容で清朝史を纏めるのかとても楽しみにしていた。先に感想を一言書けば、期待以上に面白い一冊だった。

 本書の集録範囲は、前史としての第1章にはじまり、第2章で清朝の勃興を説き、終章が辛亥革命で終わり時代的にはちょうど清朝史全般となっている。しかし上記リンク先にある目次で予想されるかとも思うが、型通りに清の歴史を順に追っていったという内容ではない。

 なによりも本書は、今日の中国にとって清朝がどういう意味があるのかという視点を重視し、歴史がどう流れたかよりも、その流れにどういう意味があり、後の中国にどう繋がっていくのか説くことに力点が置かれている。その点で一般的な通史ものとは異なる。紹介される人物は少なく、歴代の皇帝がどういう人物かなどはほとんど解説されず、太平天国は出てきても洪秀全は出てこない。また戦史も必要最小限しか語られず、サルフの戦いや三藩の乱など経過には触れずに政治史的な意味のみ解説されている。

 もうひとつ重要な点として、清朝が興隆していく中での内陸アジア、より具体的な意味でのチベットとモンゴルの重要性を説く。この点は既に先人によって説かれてきた観点ではあるが、本書ではチベットとチベット仏教により重心が置かれている。

 もう少し本書の特徴を列挙しておく。まず、導入としての序章に力が入っていて、序章と第1章、清朝史に入るまでに100ページ近くを費やしていること。また、清朝史といえば康熙帝と乾隆帝を中心に説くというのが一般的かとも思うが、著者は本書の意味において康煕帝ではなく雍正帝に焦点をあてている。また乾隆帝についても、政治的な役割以上に後に及ぼした思想的な意味を重視している。


 このように、本書は歴史上の事象の解説よりも、その意味をどう読み解くかに力点が置かれている。その意味で著者の考え方がかなり前面に出ている一冊と見れるのではないか。面白い本であるからこそ、今後内容の正否は都度に判断されていくことになるのだろう。また、清朝300年の歴史を250ページに濃縮しているので、単純化、簡略化があると考えなくてはならず、興味が向く分にはより深い内容を求める必要がある。その意味でも遠からず清帝国とチベット問題は読んでみようと思う。

 自分としては最初に書いたとおりとても面白い内容であって、途中であまり引っかかることなく読み終えた。中国史をどう見るかという観点は、自分にはかなり肯定できるものであって、論考にそれほど飛躍があったという印象はない。また、清朝史ではあるが、本書の語る日本の位置づけも面白い。

 本書は入門書という位置づけにはなく、清朝史をより深めるには本書のみでは完結しないし、本書のみを鵜呑みにすることには慎重であるべきとも思う。従来の内陸アジア史論や清朝史の予備知識がなくて楽しく読めるかどうかは判断がつかない。

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