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2007年12月16日

(書評)モンゴル年代記

アジア史選書 009
モンゴル年代記
森川哲雄 著
ISBN978- 4-89174-844-9
白帝社 2007.5

 本書では、モンゴル人の手により書かれたという年代記を紹介している。全11章よりなり、以下のとおり14作品が掲載されている。

 第1章 『元朝秘史』---北アジア世界における初めての年代記---
 第2章 チベット仏教のモンゴルへの再流入
 第3章 『チャガン・テウケ』
 第4章 『アルタン・ハーン伝』
 第5章 著者不明『アルタン・トプチ』
 第6章 『蒙古源流』
 第7章 『アサラクチ史』
 第8章 『シャラ・トージ』
 第9章 ロブサンダンジン『アルタン・トプチ』
 第10章 十八世紀前半のモンゴル年代記
  『ガンガイン・ウルスハル』、『蒙古世系譜』、『アルタン・クルドゥン・ミンガン・ケゲストゥ・ビクチ』
 第11章 十八世紀後半のモンゴル年代記
  『ボロル・エリケ』、メルゲン・ゲゲン『アルタン・トプチ』、『アルタン・ナプチト・テウケ』

 各年代記について編纂時期、著者、写本類の来歴、研究史などの紹介があり、各書の内容については特徴的な部分の引用紹介がなされている。13世紀には成立していたと考えられている元朝秘史は、その成立の早さのほか、内容も含めて特別な存在であることがわかる。チャガン・テウケが16世紀末、アルタン・ハーン伝が17世紀初成立と推定されていて、元朝秘史以外は明朝末から清朝の時代にかけてのものとなる。各年代期は、一部を除いてほぼ成立順に紹介されている。

 本書によれば、チンギス・ハンの生涯を中心に描いた元朝秘史、チベット仏教やチンギス・ハンの祭祀などについて書かれたチャガン・テウケがむしろ異質に映る。それ以外の年代記は、チンギス・ハンの一族を中心とした通史というのが基本形で、各書ごとに範囲や分量の差異はあるが、チンギス・ハンの先祖、チンギス・ハン、その子孫のことを順に並べていることが大筋で共通している。また、チンギス・ハンの先祖をチベット、さらにはインドへと求めていていることもほぼ共通している。したがって、上記2作品を除く12作品は、時代々々をそれぞれが別々に記録したというものではなく、新しいものが古いものと内容的に重なっているほか、多くのものに古い年代記を参照した形跡残っているとのこと。

 これらの点から、本書で紹介されている年代記の二次資料としての価値は、各書の比較的新しい部分を除いてはさほど高くないことがわかる。上記のようにアルタン・ハーン伝以降チベット仏教が大きく影を落としており、モンゴル帝国史を趣味として齧っている自分は、年代記を素材として北元以降の歴史に踏み入ることにさほど魅力を感じられないのは仕方が無いことと思う。


 本書のなによりの特徴は、元朝秘史以降の年代記をおよそ網羅的に紹介していることにある。内容的には、多大な論文集や重厚な解説書ではなく、一般読者が手軽に読めるレベルに簡潔に纏められた概説書になっている。波乱や大きな展開があるわけではないので、読み物としては淡々とした感じではある。ただし原典は基本的にモンゴル語であって、邦訳がそろっているわけではない状況で、どのくらい地道な作業を経れば本書が成り立つのかという点では、自分などには窺い知れない深さを持っているように見える。

 モンゴルについての教科書的な歴史ではなく、モンゴル人によって描かれた歴史という点で、モンゴルのことを知る上で本書は基礎的な概説書である。類書が無い一冊であり、このような内容を一冊で纏めて読めるという点でも貴重である。読み物として見ると必ずしも楽しいというものではないが、研究史や写本の来歴、編纂時期の推定過程など興味深く、年代記の内容以外の部分でも未知の内容が沢山あって面白く読むことができた。


 本書で紹介されている年代記の内、全文邦訳されたものとして、『元朝秘史(岩波文庫ほか、平凡社 東洋文庫シリーズではモンゴル秘史)』、『蒙古源流(刀水書房)』がある。

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