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2007年12月24日

(書評)真説 レコンキスタ

真説 レコンキスタ
〈イスラームVSキリスト教〉史観をこえて
芝修身 著
ISBN978-4-902854-29-9
書肆心水 2007.5

 イスラーム関係の歴史の中でも類書が限られる地域のひとつ、イベリア半島を扱っている。通史ではなく、戦争、宗教を中心とした関係史を解説したもの。副題にあるとおり、キリスト教勢力によるイベリア半島征服事業レコンキスタを、宗教戦争として捉えることに疑義を唱えることを目指している。

 本書は、イスラーム勢力が進出した8世紀から、キリスト教勢力によるグラナダを除く大半の征服が完了した13世紀までのイベリア半島の歴史を扱った第1部レコンキスタの進展。宗教的な側面を中心としてレコンキスタの本質が十字軍的な宗教戦争だったのかどうかを検証した第2部レコンキスタとは何かよりなる。

 第1部では、イスラーム勢力の半島進出と、アストゥリア、レオン、カスティーリャと続く王国を主役とした半島征服の歴史が解説されている。両勢力ともに一枚岩ではなく、単純な対立抗争でなくて同盟、主従関係が複雑な政治色の濃い歴史であったこと。ピレネー山脈の北側、西ヨーロッパ世界からの孤立と半島の独自性が語られるほか、分裂時代のイスラーム勢力についても多く言及されている。

 第2部では、宗教的な側面として半島における実態の特殊性を説き、キリスト教を拠り所に庶民も含めた広汎な団結はあり得ないとする。また、必ずしも対立が劇的だったわけではなく、宗教を越えた同盟や征服時における降伏が穏やかに行われた事例なども紹介されている。

 筆者は、スペインの農業経済史を専門とし、その研究の過程で得た情報をベースに本書を纏めたという。その点で、本質的な研究書や概説書ではなく、意欲的な努力作品と見ることができると思う。


 イスラームに関わった世界の中でもヨーロッパそのものであるにもかかわらず、日本国内では特にイスラーム側の情報は少ないと思う。本書は欧米の主に過去数十年の多くの研究書を下敷きにしており、その点では貴重な情報が多く含まれている。中でもイスラーム勢力が分裂していた時代の各勢力や、キリスト教側を含めた詳しい関係史は初めて読んだように思う。

 読んでいる最中としては、筆者が政治史が本職ではなく、二次、三次資料である研究書を纏めたものという点が内容に現れている。意図的に書いたものか資料の制約によるのかは分からないが、やや独特な文学表現が散見され、具体的な表現の省略に内容の軽さを感じてしまう。

 文中にさほど言及されていないため、引用された研究書の妥当性は本書を読んだだけではなんとも評価できない。その点では、イベリア半島の歴史におけるレコンキスタの位置づけが、昨今どのようになされているのは朧げにしか評価できない。また、副題が意欲的に掲げられ内容的にもそれなりの事例が提起されているが、文脈的にはさほど強調されているわけではなくやや拍子抜けだった。

 直感的にはそれほど外れていないのではないかという印象を持ったが、細かい部分で具体的な内容を省いているため致命的な錯誤は少ないかもしれない。類書が少ないこともあり、第1部を中心に歴史経過をベースとしたイベリア半島におけるイスラームキリスト教関係史の、比較的読み易い解説書としては面白い一冊だと思うのだがどうだろうか。

 具体的な地名がそこそこ登場するが、網羅した地図が載っていないのは難である。電車の中で読むことが多い自分には、このような本には是非とも詳しい地図を添付してほしい。

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コメント

こんにちは。
『真説 レコンキスタ』は途中まで読んだのですが、むとうすさんのおっしゃるように、大意は分かりやすく論旨は簡潔だったと感じました。
その割にはページが分厚いのは、作者の仕事が宗教という一元的な立場から俯瞰するのではなく、「たまたまキリスト教を選択していた人々」と「たまたまイスラムを選択していた人々」の間の実際の関係を詳述することにあるからなんでしょうか。

「具体的な表現を省略」しているとか「文学表現」とかは気付いてませんでした。
西欧史の概説書の表現はこんなものかな?くらいに思ってました。やっぱり西欧史研究の門外にいると分からないものですね。

ところで私はデンマークのブロック遊びレゴの中世騎士編や近世カリブの海賊編から歴史に興味をもった小学生なんですが、レゴの世界みたいな生き生きとした描写の冒険譚を体験したいと思って西欧史に入門しようとすると挫折したことがあります。

この本はかなり分かりやすい方だと思うのですが、それでもレゴよりもずっと世界観は分かりにくいです^^
宗教の影響力は相対的なものであると思いますが、イベリア半島の地域社会を宗教の影響力を除外して国民統合、半島統一するだけの大義も勢力も、イベリア半島には用意出来なかったと思います。
とすると、結局宗教戦争という形に頼らないとスペインは王国を完全に統一することはできなかったと思うんですよね。

だから宗教戦争ではなかった、と言い切ることにもためらいを覚えるんですけども。

投稿: 巫俊(ふしゅん) | 2007年12月25日 10時52分

小学生だったんですが、と過去形にしないと不味いでしょうか(^^;

投稿: 巫俊(ふしゅん) | 2007年12月25日 10時56分

おおお、これは面白そうな本ですね・・・・
我慢我慢・・・。

投稿: 蒸しぱん | 2007年12月25日 23時19分

巫俊さんこんばんわ

>その割にはページが分厚いのは、(中略)実際の関係を詳述することにあるからなんでしょうか。

筆者は、スペインらしい多様性の面白さをよくご存知なんだなあ感じました。世間的にイスラームとキリスト教の対立というけどそんな単純じゃないぞ・・・というような違和感もかなりお持ちなのかなとも。
第1部だけでも150ページからありますが、もっと語ってほしいなあと思って読んでましたね。


>「具体的な表現を省略」しているとか「文学表現」とかは気付いてませんでした。
>西欧史の概説書の表現はこんなものかな?くらいに思ってました。

自分が「文学表現」といったのは、今ぱっと開いたページでいえば、136ページ3行目からの

 かくしてカリフはこれら三都市を足繁く往来する、多忙な過客の国家指導者となった。

この中の「足繁く」とか「多忙な過客」とかに「どの位頻繁に?」とか、「何に忙しかったの?」とか具体的な表現が欲しいなあと思って読んでました。普段使わない熟語が数ページに一カ所くらいあったのが妙に気になって。個人の癖として流すレベルなのかもしれませんが。
私も門外なんですが、この本は自分的にはスペインの本じゃなくて、アンダルシアもしくはイスラームの本です(笑)

>だから宗教戦争ではなかった、と言い切ることにもためらいを覚えるんですけども。

相対的にいままで言われてきたよりは宗教色は薄い、という意味に捉えて本書の方向には違和感はなかったです。
ただ、第二部で聖ヤコブに対する信仰などに触れて、聖戦というほどではないというように書かれていましたが、論述としては根拠弱いなと思います。


私は三国志とかから東洋史に入ったものです。中学のときですが(^^;
三国志演義のどこまでが本当の話なんだろうと知りたくて深みにハマったのが高校のころです(笑


蒸しぱんさん
そんな遠慮なさらずに(笑
自分も最近は似たようなものですが(^^;

投稿: 武藤 臼 | 2007年12月26日 00時51分

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