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2008年1月21日

(書評)ロシアとアジア草原

ユーラシア文化史選書
ロシアとアジア草原
佐口透 著
ISBN4-642-08003-1
吉川弘文館 1971.4

 一昨年お亡くなりになられた著者の佐口氏について直接のご縁は全く無いのだが、今の自分にとっては大陸の歴史に関心を持つ上で特別な存在の一人である。佐口氏と聞いて自分が思い浮かべるのは、モンゴル帝国史(ドーソン著、平凡社 東洋文庫)である。氏が訳されて膨大な注を追加されたモンゴル帝国史全6冊は、集史の全面的な邦訳が未だにないこともあり、今日でも自分のような在野のモンゴル好きには欠かせないシリーズである。

 本書は、その氏が残された数少ない一般向けの単行本の一冊であるようだ。今読んでも名著であると聞き古本屋から取り寄せた。

 本書の扱う範囲は、16世紀の中頃から19世紀初頭までのトルキスタンの歴史。もう少し具体的にいうと、ロシア帝国がヴォルガ川流域を征服して中央アジアに接触するようになってから、ロシアが直接支配に乗り出すまでの間の中央アジアの歴史を解説したもので、タイトルにあるようにオアシス地帯ばかりでなく草原地帯に光が当てられている。下に書き出した目次のようにテーマ毎の章立てという体裁だが、大まかには年代順に記載されていて通史としても読むことができると思う。

 また、貿易という章があるように本書では、中央アジアを介した貿易についての話が重要な部分になっている。文献を駆使して貿易の具体的な中身が解説されていて、何がどこからどこへ運ばれたのか説明されている。自分としては、政治史よりは退屈に思いがちな経済史部分について、そう思うことなく興味深く読了できたのは本書の魅力のひとつではないかと思う。


 本書が世に出てから既に35年が過ぎているが、少なくとも情報量の多さにおいて本書の扱う時代を網羅して本書を上回る本はまだ無いように思われる。自分が持っている高校世界史的なイメージで言えば、本書が扱う時代はモンゴル帝国やチムール帝国が姿を消してからロシアの色が着くまでのあまりはっきりとした色が無い時代である。その時代の総合的な解説からひとつのイメージを持てるという点で、まず本書は貴重な一冊である。

 また、本書は単純な政治史ではなく、中央アジアらしく外交史、経済史の要素を多く盛り込んでなお読み易く纏められている。最近の本と比べるとやや纏まりの無いカタカナ表記に時代を感じるものの、内容的には前評判どおりの一冊だった。当然ながら、本書以降で各論として研究が進んだ部分は多々あると思うのだが、それについても本書を土台として手を広げて読み進めるという方法は良い一手と思われる。これらの意味で、古本としてしか入手できない一冊ではあるのだが、近世中央アジア史の入門書としてお勧めできる一冊である。


<目次>
序章
1章 ロシアと《絹の道》
 1 モスクワ国家の東洋貿易
 2 《カタイ》への道
2章 インドへ向かうモスクワの眼
 1 ロシアとカザーフ草原
 2 ピョートル大帝とインド
3章 ジュンガル王国と東西交渉
 1 ジュンガル騎馬民国家の興亡
 2 ジュンガル王国と定住文明
4章 乾隆帝と中央アジア
 1 清帝国領中央アジア
 2 清朝とイスラム
5章 アジア草原の国際貿易
 1 パミール周辺の中継貿易
 2 カザーフ草原の国際貿易

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コメント

おー、持ってる、持ってる!
と思ってぱらぱらとめくってみたら(←読んでない)
すごい書き込みが。前の持ち主がたいへん勉強してたみたいです。見習わなければ。
旧サライの情報を探していたら、そこにも佐口氏の名前が! お釈迦様の手のひらの上の孫悟空の気分?

投稿: 雪豹 | 2008年1月25日 18時15分

やっぱり古本なわけだ

確かに佐口先生の手の上からはまだ抜け出してませんねえ(笑

投稿: 武藤 臼 | 2008年1月25日 23時50分

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