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2008年1月24日

(書評)イスラーム農書の世界

世界史リブレット 85
イスラーム農書の世界
清水宏祐 著
ISBN978-4-634-34850-9
山川出版社 2007.12

 農書とは、農作業をどのように行うかを具体的に記した実用書のこと。中国の歴史を読んでいてそういう実用書を書いた人物を紹介しているのに出会った記憶があるが、農書そのものを採り上げて紹介しているものを読むのは初めて。全く未知な世界である。

 また、当然ながら本書は世界史シリーズの中の一冊なので、歴史上の農書であって、古文献研究の一端でもある。実用書の文献という分野も自分には珍しいが、本書はその中でもイスラーム世界で纏められ伝えられてきた農書の話。現存するものとしては、10世紀にイラクでアラビア語で書かれたものがあるとのこと。1章では、そのようなイスラーム世界で書かれた多くの農書が広く紹介されている。

 その中に、16世紀のヘラート地方(アフガニスタン北西部)でペルシャ語で書かれた『農業便覧』という農書があり、2章から4章ではその中から具体的な中身が紹介されている。それらは、土壌や灌漑のことから、種蒔きや収穫の季節のことまで全く現代でもそのまま使えそうな技術論から、一方で見ようによってはかなり頓珍漢な農業占いの話まである。中央アジアらしく、葡萄に95種類もの品種名があるといい、その名前の意訳が紹介されていたりする。


 本書は、なによりも普段読む機会の無い歴史的な実用書の紹介というだけで興味深い。読み終わって思い返せば、農業技術というのはなんら漠然としたものではなく、このような具体的な情報(紙ではないものも含めて)によって伝えられてきたという至極当然な点に立ち返らされた。

 また、これらイスラーム世界の知識はスペインを通じてヨーロッパに伝えられ、近代農学へと繋がることに触れられていた。日本における近代農学もその延長線上にあるわけで、学生時代に学んだことを奇麗さっぱり忘れているということかもしれない。小冊子ながらなかなか興味深く、かつ新しい世界を見せてくれる面白い一冊だった。


<目次>
1 農書の成り立ち
2 農書を読む
3 乾燥地と乾燥地農業
4 農書から広がる世界
5 農書写本の世界

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