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2008年3月17日

(書評)中国とインドの諸情報

東洋文庫766
中国とインドの諸情報 1 第一の書
家島彦一 訳注
ISBN978-4-582-80766-0
平凡社 2007.9

 

東洋文庫 769
中国とインドの諸情報 2 第二の書
家島彦一 訳注
ISBN978-4-582-80769-1
平凡社 2007.12

 本書は、『中国とインドの諸情報』というアラビア語文献を邦訳し、注釈と解説を加えたもの。原書は次の2つの部分からなり、同時に本書の1巻と2巻に対応している。1つ目は、9世紀前半に書かれたと推測されている『第一の書』で、原著者は不明。2つ目は、同じく10世紀前半と推定される『第二の書』で、原著者は本書にも登場する港町スィーラーフの出身というアブー・ザイド・アルハサンである。本書で利用されている写本は、パリ国立図書館に唯一現存しているもので、17世紀初頭に書写されたものと推定されるとのこと。

 本書は、1巻が本文53頁、注127頁、解説64頁、2巻が本文77頁、注120頁、参考文献30頁という構成になっていて、訳本文を大きく上回る注、解説が集録されているという訳者家島氏の力作である。元になった2つの書について、家島氏は解説の中で以下のように評している。

 八世紀から一〇世紀までの、ほぼ二〇〇年間にわたるインド洋海域を舞台とるす人々の生きざま、モノの生産と交換の諸関係や情報・文化の交流のあり方とそれらの変化・変質の諸相について、具体的状況をわれわれに伝えてくれる最も古い貴重な歴史資料であるといえよう。(1巻のP.211)

 少し具体的に本文部分について。未知の世界についての情報を伝えるものとして、物語のような旅行記なのか、解説書のような地誌的なものなのかと分けてみると本書は後者になる。第一の書の著者は、自分の体験として書いている部分も一部にあるが、大部分は伝聞である。また第二の書は、ペルシャ湾の港町であるスィーラーフやバスラで船乗りから聞き取ったことなどを元にして書かれたものと考えられている。

 紹介されている範囲は、中東から中国への航路に沿ってペルシャ湾、インド、マレー半島、インドシナを経て中国の広州まで。さらにその周辺地域として現在のミャンマー、雲南、チベット、ジャワ島などにあたると推測されている情報が紹介されている。第二の書では、簡単ではあるが東アフリカや紅海についても言及されている。


 感想を少し。本文そのものの量はさほど多くはなく、この類のものとしてはかなり読み易いと思う。注が多いのだが、地名、人名以外は放って置いてとりあえず読み通してみると、本書の雰囲気が伝わるのではないかと思う。上に書いたように、物語調ではなくやや無味的な解説書なので読んでドキドキするわけではない。

 第二の書の原著者アブー・ザイド・アルハサンは、内容の正確を期す為に情報を厳選してある旨を書き残している。それでも誤伝と思われるものや、なんらかの文献を下敷きにしていると思われるものなど、間違いと考えられる部分もそれなりにあるのだが、荒唐無稽な話はほぼ皆無である。この点は、今から1000年以上前ということを考えると、かなり凄いことと思う。その様な例として、中国9世紀の黄巣の乱について書かれているところを挙げることができる。

 本書は、訳者が述べているようにそもそも貴重な情報源であるが、もともと難解なものであるらしい原書を手軽に読めることがなにより重要である。既存のものとは異質な情報に手軽に触れられるという、やや凝った内容の面白い一冊である。


<スィーラーフについて>
 スィーラーフは、原書が書かれた時代のペルシャ湾の重要な港町で、第二の書の著者であるアブー・ザイド・アルハサン出身地でもある。

 スィーラーフへの紀行文を載せているブログ
  イランという国での中のスィーラーフ

 Google Map
  画面中央、道と海岸に挟まれた遺跡らしいのがスィーラーフのモスク跡と思われる。中世ペルシア湾の古代海港---シラフ港の発見---の紹介記事と掲載されている図面から推定した。


<目次>
●第一の書
 中国とインドの諸情報についての第一の書
 再びインドと中国の諸地方ならびにそこの王侯たちの情報

 『第一の書』の注
 解説

●第二の書
 中国とインドの諸情報についての第二の書
 ザーバジュの町の説明
 再び中国の情報に戻り、彼らにかかわる若干の事柄の説明
 インドの諸情報の一部
 ザンジュ(ザンジュ人の)地方
 真珠の説明

 『第二の書』の注
 参考文献

※本書注によれば、ザーバジュについては、9世紀前半まで、ジャワ島に本拠を置いたシャイレーンドラ王国と、それ以降にスマトラ島のパレンバンに都を置いたシャイレーンドラ・シャリヴィージャヤ王国の情報が混ざっているとのこと。ザンジュは、東アフリカのこと。

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コメント

ひょっとしてこれと同じ?
http://homepage2.nifty.com/i-love-turk/reference/akhbaral-sinwaal-hind.htm
二冊になるほど量があったっけ?
相当詳しく解説されてるんですかね?

投稿: 雪豹 | 2008年3月18日 19時32分

雪豹さん、こんばんわ

そそ、同じです。家島氏は、あとがきで藤本氏の本とその他の多くの研究を踏まえて、次のように書いてます。
「これらの研究はいずれも九・一〇世紀のインド洋交易の実態を理解するという点では不十分であり、とくに航海や交易に用いられた特殊な用語や方言の解釈については細心の注意が払われているとは思われない。(中略)既刊の訳注書に比べて、より精密な検討を加えたものであると自負している。」

1、2巻とも170ページほどです。東洋文庫のシリーズとしては薄い方かと思います。上に書いたように本文の倍のページ数の注があります。かなりな力作じゃないでしょうか。

投稿: 武藤 臼 | 2008年3月19日 00時22分

なるほど~。
あの本は入手困難だし(というかそもそも売ってたのか?)『大旅行記』も丁寧な解説で良かったから(サライの所しか読んでないけど)、買おうかな?
ちょっと自分の興味の方向とは違うような気もしますが、注たっぷりっていうのは良さそうですね。

投稿: 雪豹 | 2008年3月19日 18時29分

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