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2008年3月10日

(書評)黄河断流

地球研究叢書
黄河断流
---中国巨大河川をめぐる環境問題
福嶌義宏 著
ISBN978-4-8122-0775-8
昭和堂 2008.1
目次は、こちらを参照

 この本は、総合地球環境学研究所における循環領域プログラムの中の近年の黄河の急激な水循環変化とその意味するもの、通称黄河プロジェクトのリーダーを務める筆者が、共同研究の成果をもとに黄河を巡る問題を纏めたもの。筆者の専門は水文学と思われるが、本書は報告書ではなく当プロジェクトを紹介するものとして、黄河を巡る歴史から環境問題までを広く扱っている。

 本書は、3部14章よりなる。第1部は、歴史、地理から気象の変動、灌漑農業など黄河を巡る問題についての解説。第2部が、統計データを利用した食料生産地としての黄河流域の具体像とその解説で、水文学のモデルによって黄河の変化を再現している。2部の後半がとくに筆者の研究の中心部分と思われる。第3部は、灌漑農業をはじめとする水や農業をめぐる環境問題を考察したもので、黄河を中心に参考となる事例や日本における意義などにも触れている。

 ここでいう断流とは川に流水が無くなること。黄河断流としてここで採り上げているのは、主に1990年代に黄河下流部の広範囲で、長期に流水が無くなったことを指している。中でも1997年が深刻で、黄河最下流部の流量観測所では226日間断流し、その範囲は黄河が華北平原を流れる部分の9割にあたる700kmに達したとのこと。

 本書のタイトルは、黄河断流なわけだが、自分が読み終わった感想としてそれは本書の切っ掛けとなった事件であって、内容的には、副題中国巨大河川をめぐる環境問題の方が中心と思う。断流のメカニズムについては十分に示されているが、その因果の部分がさほど強く主張されていないように見えることもある。筆者の関心は、断流そのものから、黄河に関わる環境や農業に移り、その問題点を指摘することにより意義が求められているということだろう。


 本書の興味深いところだが、上に書いたようにまず水文学的な解析に至るまでが本書に中心で、その為に必要な黄河の流量、降水、気温や耕地面積などのデータが紹介されている。まずそのデータそのものが興味深い。そして、大河のモデル解析など変数が多すぎてアバウトなものかと思ったが、意外に繊細なものに仕上がっている。また中国の地理、地勢という点で、黄河流域の状況、とくに大規模な灌漑が行われている場所、その実態、流域のダム、黄河からの取水の実態などの情報も自分には有意義だった。

 本書では、黄河のことを読み解く上で遡って歴史上のことから語っている。ここで示されているような黄河を巡る状況や問題点は、逆に歴史の中での黄河を考えことにも十分に意味があると思う。その意味でも有意義な一冊だった。

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