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2008年3月31日

(書評)東アジア内海世界の交流史

東アジア内海世界の交流史
---周縁地域における社会制度の形成
加藤雄三・大西秀之・佐々木史郎 編
ISBN978-4-409-51059-9
人文書院 2008.3
目次は、本書タイトルのリンク先を参照

 本書がいう東アジア内海世界とは、日本列島によって区切られた日本海と東シナ海を囲む地域を指している。ヨーロッパ地中海と共通性に欠けるとして、地理学用語としての東アジア地中海は避け、日本を起点とした東アジア内海を巡る地域を考察するものとのこと。「交流・交易をになった地域のすがた」「社会をつくる人びと、つなぐ人びと」「日々の営みをめぐる権利」という3部よりなり、それぞれに4章、計12章という構成。

 12章は、それぞれ別々の執筆者によって書かれている。自分的には初めて名前を目にする方が多いのだが、経歴を見る限りでは、各分野の若手が多いように見える。また、本書は論文集や固めの概説書というのではなく、一般向けの解説書として意識して書かれたもののようで、入門書というわけでもない。目次を見ればある程度察せられるかと思うが、比較的狭いエリアやテーマのものが集められている。この様な設定に込められた意図は、「おわりに」で編者の一人大西氏が語っている。その要旨は、そこに設けられた5つの段落のうちの2つ目から掲げられた以下の4つのタイトルが物語っている。

 地域史的な読みの限界、統合のために視点の転換、実践としての制度の理解、周縁からながめる歴史の意義
 本文を読み終わって「おわりに」を読むと、なるほどなと自分には半ば合点が行った。半ばという点は、ほんとうに「地域史的な読みの限界」なのだろうかという点が納得するまでに至らなかったこと、「実践としての制度の理解」としては、本書第3部の内容はミクロに過ぎないかといった疑問が残ったことによる。ただ、これは本書全体に対する意図、意欲の結果をどう考えるかということに対する疑問なので、個々の章の善し悪しとは多少別ものである。また、各章では他の章との関連が設定されてはいるものの、基本的には各章単位で完結されている。


 12章の中で、面白いと思ったところを少し紹介してみる。まず2章。琉球王国モノは、自分はときどき思いつきで読むていど。そのレベルとして、沖縄本島だけでなく奄美や八重山までを総括的に解説しているものを初めて読んだ。交易・交流として、日本との関係も本章のテーマのひとつだが、簡潔ながらも琉球全体を対象にした解説は自分には新鮮だった。

 6章は、辞令書をひとつの起点として、満洲八旗に属する人々の領地相続を解説しながら、満洲人の社会を見ていくというもの。清朝史を専門とする杉山氏の一般向けの文章は、初めて読んだように思う。本書では、満洲人を江戸時代の武士に重ねるユニークな導入を立て、文書行政という小難しい話を面白く書き出している。氏が関わった本が、既に書架に数冊積み上げられており楽しみにしておく。

 8章は、明治初期に台湾出兵の切っ掛けとなった、沖縄先島の漂流民殺害事件について、台湾で実際にどういう事件が起きたのかを考察したもの。この事件については、日本政府がどう取り組んだのかというものは何度か読んだ記憶があるが、事件そのものを細かく解説したものは初めて。事件の内容自体も興味深いが、その話がどう伝えられてきたのかという考察も興味深い。

 10章は、中国江南の太湖周辺における漁民と漁業権について、現地での聞き取りをベースとして考察したもの。内容としては、民国時代はどうだったのかという話が中心。中国のそれも淡水域での漁民の話は、それ自体が新鮮だが、その漁業権に関わるやり取りが、前近代的な香りのするものでなかなか面白かった。


 本書は、以上のように個々の章はわりと細かい話題が中心になる。その点では、一般書としては他の本ではあまり語られていないことが含まれていて、それはそれで意味があると思う。全300頁弱で、1章あたりは20頁ほど。読み終わった感覚としては、各章についてページ数のわりに物足りなさがあまりなかった。その意味では良く纏められていると思うし、難解な内容でもなかった。本書全体として意図された部分をどう考えるか、いくつかの章の内容に惹かれたら、読み終わってから考えてみるで十分と思う。

 自分的には、個々の章の面白さに加えて、多少の疑問は残ったものの、意図と内容の関連性には面白さがあり、少なくとも半ばは合点がいったという意味で十分に面白い一冊だった。

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