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2008年4月20日

(書評)秀吉の接待

学研新書 021
秀吉の接待
---毛利輝元上洛日記を読み解く
二木謙一 著
ISBN978-4-05-403468-6
学習研究社 2008.2

 豊臣秀吉政権下で五大老の一人であり、中国地方屈指の大名であった毛利輝元。彼は、秀吉による日本統一が進められている最中、本拠である安芸吉田(現在の広島県安芸高田市)を離れて初めて上洛を果たした。本書は、その際に輝元に従っていたという平佐就言が残した日記を引いて上洛の様子を語ることで、輝元や秀吉を取り巻く日々の出来事や文化習俗を具体的に紹介するもの。武士の儀礼や往時の風俗についての著書を物し、大河ドラマの風俗考証も務めたという筆者らしい一冊ということだろう。

 本書は、就言の日記そのものを解説、考証したものではない。また論文や概説でもなく、一般読者を想定した物語的な構成で、輝元上洛の様子が時系列どおりに綴られている。ここで描かれているのは、輝元が1588年7月に安芸吉田を出発して、瀬戸内海を東上して大坂に上陸し、京都、奈良、大坂を巡って再び瀬戸内海を渡り、9月に帰り着くまでの2か月あまりの出来事である。輝元の叔父小早川隆景や従兄弟吉川広家、多くの近臣のほか、徳川家康をはじめとする既に秀吉政権に参加している大名、公家や商人、そしてまだ帰服していない北条家の氏規など多くの人々が登場する。

 1588年は、秀吉による前年の九州遠征と90年の小田原遠征の間の年で、秀吉政権が完成されていく途上にあたる。輝元にとっては上洛が初めてであるばかりでなく、秀吉との対面もまた初めてとのこと。当主が上洛したことで秀吉政権における毛利家の立場が確定する過程であり、また輝元がどういう形で秀吉政権に加わって行くかを決める切っ掛けにもなったという。

 上洛の途上では秀吉との対面前という緊張感が描かれ、上洛を果たしてからは聚落第での謁見や日々の挨拶周り、接待攻勢が続く多忙な日々が描かれている。また、習俗や政治状況などの説明には、日記で足りない部分を他の資料にも求め、人物描写などについては筆者の推測も交えている。


 まず、古文書の解説でも小説でもなく、また政治や習俗を直接解説したものでもないという設定が面白い。2か月ほどの出来事が新書としては厚めの300頁あまりに纏められ、謁見や宴席における席次や服装などについてかなり細かく描かれている。物語的な進行の中にそれらが解説されているので、文化史にあまり興味のない自分でも飽きることなく一気に読むことができた。

 具体的な情報という点では、豊臣秀長の大和大納言、細川忠興の長岡越中守など当時の名乗りが多数紹介されていること、豊臣輝元というような豊臣姓賜与に触れていること、膨大な金品のやりとりが細かく書かれていることなど、多岐に渡ることも本書の面白さである。また、登場する多くの有名武将たちが、どのような状況にあって輝元とどう関わったのか、1588年の一時という状況のものではあるものの、ほかの解説書とは異なる側面が見られるのも面白かった。

 本書は、日記をベースにしながらも従来とは違った解説書をと目指したもののようだが、深い内容を企画どうりに面白く読むことができた。具体的な内容に自分には勉強になるものが多くあることもあり、お薦めできる一冊と思う。


<目次>
第1章 上洛への旅
第2章 初めての京都
第3章 楽しき京都
第4章 大坂城の関白秀吉

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