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2008年5月12日

(書評)ジャガイモの世界史

中公新書 1930
ジャガイモの世界史
歴史を動かした「貧者のパン」
伊藤章治 著
ISBN978-4-12-101930-1
中央公論新社 2008.1

 足尾鉱毒事件で北海道へ移住した人々の話に始まり、ジャガイモに支えられていたために不作による飢饉で大勢のアメリカ移民を生んだアイルランド、ジャガイモが本格的に普及した18、19世紀のドイツやロシア、さらには満蒙開拓やシベリア抑留など、ジャガイモに関わる話が次々に登場する。そもそもジャガイモは15世紀以降に新大陸からもたらされたものであるので、歴史といってもインカ帝国について触れた第2章の2を除いて近現代史に限定される。また、ジャガイモの原産地といわれる南米ペルーのティティカカ湖の浮き島や、長野県飯田市下栗の傾斜地でのジャガイモ栽培の紹介などは全く現代の話である。

 中には、背景を説明するために延々とジャガイモが出てこない部分があり、その背景の方がメインでジャガイモは脇役であるようにすら読める。ジャガイモの変遷について体系的に語っているわけではなく、話が時代順に流れているのでもなく、章と章の繋がりもない。著者自身があとがきで

「ジャガイモの世界史」という大仰なタイトル
と書かれているが、自分もそう思う。本書は、ジャガイモの歴史を扱ったものではなく、ジャガイモが出て来る社会史的な小論をオムニバス的に収録したものと言えるかと思う。


 だからと言って内容が酷いというわけではない。元新聞記者らしい文章なのではと思うのだが、多くの文献に当たった上で現地を回り、実際に体験した人達の話を聞いて取材を纏めたという、新聞の少し長がめの連載コラムという趣き。前段としての蘊蓄が豊富で、国を異にする多くの人が登場する。ただし、文献の扱いについては二次、三次利用が多いようで曖昧さが残る。さほど実害はないのかと思うが、歴史が関わるとちょっと気になる。

 第4章のアイルランドの話はテレビで採り上げられていたのを見たことがある。また、ティティカカ湖の浮き島もなんどか映像になったように思う。それ以外の部分、中でもヨーロッパに普及しだした頃の話と日本の明治以降の話は、今までに読んだことのない話であったり、ジャガイモという切り口が新鮮だったりと勉強になる部分が多く興味深く読めた。

 ジャガイモの文字を繰り返し読んでいたら急に食べたくなり、スーパーで買い込んで2日続けて腹一杯食べた。ジャガイモを主食にした料理は結構好きだ。ジャガイモ料理というとネパールのカトマンズで食べたマッシュポテトにミートソースをかけたのを思い出すのだが、しばらく楽しめそうな気がする。


<目次>
第1章 オホーツク海のジャガイモ
 1 栃木から最北の地へ
 2 入植を支えたジャガイモ
 3 芋判官
第2章 ティティカカ湖のほとりで---ジャガイモ発祥の地
 1 ふるさとの湖で
 2 インカ帝国を支えた食物
第3章 ペルー発旧大陸行き---そしてジャガイモは広がった
 1 だれが伝えたのか
 2 ヨーロッパへの普及
第4章 地獄を見た島---アイルランド
 1 英国支配とジャガイモ
 2 大飢饉と移民
第5章 絶対王政とジャガイモ
 1 大王とともに---プロイセンの場合
 2 農学者の創意工夫---フランスの場合
 3 抵抗を越えて---ロシアの場合
第6章 産業革命と「貧者のパン」
 1 産業革命の明と暗
 2 日本の産業革命
第7章 現代史のなかのジャガイモ、暮らしのなかのジャガイモ
 1 戦争とジャガイモ---ドイツの場合
 2 社会主義崩壊とジャガイモ---ロシアの場合
第8章 日本におけるジャガイモ
 1 ジャガイモ上陸の地---九州
 2 天に一番近い畑はジャガイモ畑だった---長野
 3 「サムサノナツ」とジャガイモ---東北
 4 満蒙開拓団の現代史---満洲、那須
 5 シベリア抑留とジャガイモ
 6 「男爵イモ」の街---北海道
 7 文学に描かれたジャガイモ
終章 「お助け芋」、ふたたび?

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