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2008年5月10日

(書評)夕陽の梨

夕陽の梨
五代英雄伝
仁木英之 著
ISBN978-4-05-403631-4
学習研究社 2008.5

 中国五代十国時代の国のひとつ、後梁最初の皇帝となった朱全忠が、まだ朱温と名乗っていたころを描いた小説。唐朝末期、子供の時に父を失って家族が不遇になったころに始まり、黄巣の反乱軍に参加して各地を転戦するまでが描かれている。時代的には860年から880年、朱温9歳から29歳までということになる。ちなみに、彼が皇帝となったのが907年、息子に殺されたのが912年、61歳の時。

 ストーリーは、朱温が成長の後に塩商で出会った仲間を率いてホウクン(ホウは广に龍、クンは員に刀)の乱に参加、黄巣の乱にも参加して一軍を率いるまでになり、黄巣に従って各地を転戦した後に長安を陥して入城した所で終わりとなる。五代英雄伝とはあるものの、五代になるだいぶ前までしか語られない。

 登場人物としては、重要な人もふくめて架空と思われる人物も登場するが、ホウクン、黄巣の他、乱の首謀者のひとり王仙芝、朱温の次兄朱存、朱温の部下のホウ師古(ホウは广に龍)、朱珍、張存敬、唐朝側の辛トウ(言編に黨)、令孤綯、高駢など正史に名を残す人々が多数描かれている。変わったところでは、布袋が重要な人物として登場しているが、この時代の実在の人物というのは知らなかった。


 感想を少々。テンポ良く書かれていて読み易く、主人公に肩入れしながら楽しく読み終われたように思う。表現的に少しとりとめがなく、話を広げた分散乱している感じはある。章によって主人公から離れる部分があるのだが、あくまで主人公中心に絞った方が纏まったような気がしている。

 歴史ものとしてはというと、細かい部分でもう少しリアリティーが欲しい。字名が出てこないということもあるし、会話表現があまり面白くない。また、背景描写としても中国や唐末といった場所と時代を感じさせるものがあまりない。これらは、どうしても物足りなさとして残る。ただ人という点では面白く描かれており、朱温というマイナーな人物を中心に時代がそれなりに見えて来る。

 最後に、読み終わって自分が一番気になった点。それは、なぜ主役の朱温が朱全忠を名乗る前に物語が終わってしまうのかということ。野暮な話なのかなとも思うのだが気になる。主人公は、歴史上の評価よりはかなり好青年として描かれているように思う。苦悩を含む前半生があるからこそ波乱含みの後半生がある、という含みを読み取ることもできると思うのだが、それにしても随分と生真面目な主人公である。とはいえ、こういう意外な主役は大歓迎なので、次回作でも是非意外な人物に挑戦してほしい。

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