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2008年7月21日

東アジアと日本 交流と変容(感想)

東アジアと日本 交流と変容
統括ワークショップ報告書
今西裕一郎 編
九州大学21世紀COEプログラム(人文科学) 2007.2
 (目次は、上記書名のリンク先を参照)

 21世紀COEプログラムとは、日本学術振興会のHPによれば、

 我が国の大学に世界最高水準の研究教育拠点を形成し、研究水準の向上と世界をリードする創造的な人材育成を図るため、重点的な支援を行うことを通じて、国際競争力のある個性輝く大学づくりを推進することを目的
とした文部科学省の助成事業とのこと。東アジアと日本 交流と変容は、2002年度に採択された人文科学分野のプログラムで、本書は2006年の11月に九州大学で行われた5年間にわたる事業の総括としての行われた研究会の報告書。プログラムによれば、研究会では2つのサブテーマ設けて併せて16人の論者による発表と各サブテーマ毎の討論、総合討論が行われている。本書は、その内容に沿ったもので、3回の討論も集録されている。なお、本書は発表者のひとり舩田さんより頂いたもの。ありがとうございます。


 一つ目のテーマが、ヒトの移動とイノベイション。古代から近世初頭までの人や技術などの移動による影響の解明、検討を通して

交流と変容の観点からみた「東アジアの史的特質」の析出
を目指したものとのこと。発表は、アイデンティティをメインあるいはサブテーマとしたものが過半を占め、人の動きの中でどう捉えられてきたのかが重要な要素となっている。この点は討論でも同様で、アイデンティティの多重性という言葉で締められている。近代国家という形以前のアイデンティティをどう考えるかという点で、自分には興味深い内容をいくつか含んでいた。


 二つ目が東アジア世界の形成と中華の変容。これまでの成果を踏まえながら、このプログラムにおける中心的な概念であるという

 東アジア、中華の問題
について一定の総括を目的としているとのこと。発表は、国の形や人々の意識という点についてのもの。ここのテーマとして興味深いものが並んでいるが、漢と匈奴とかモンゴル時代の中国とイラン、あるいは明代のモンゴルなど、東アジアより扱う範囲が広いのは相対化ということだろうか。討論では、その相対化という面からか、東アジアをどう捉えるのかという方向に流れるようにみえるが、対象が広くて自分には全体像が捉え難い。


 この二つのテーマを受けて、最後に27ページにわたって総合討論が掲載されている。南北朝時代や宋元といったところを画期として中華が変わっていくという話、外交圏と経済圏の二重性という話、中華とある程度の距離を取った朝鮮の小中華という話、あるいはそもそも論として二つ目のテーマから続く東アジア枠組み論など、個々の発言者の話は興味深い。日本を含めて時代的にも空間的にも多様な話が展開して、その意味では東アジアにおける交流のダイナミズムとか変容とかはなんとなく見えて来るが、総論としての纏まりが自分には今ひとつ捉えきれなかった。


 あと、個々の発表内容について、いくつか紹介とコメントを。

モンゴル時代における民族接触とアイデンティティの諸相
 舩田善之

 もともとキタイや漢族、タングートとされる人々がモンゴル時代に政権側として活躍し、モンゴルとしてのアイデンティティを持っていたという事例が紹介されている。モンゴル、色目、漢人、南人とされたモンゴル時代の身分制度が虚構だという論は以前から目にするが、漢人を含む具体的な事例という点で興味深い。


鮮卑の文字について---漢唐間における中華意識の叢生と関連して---
 川本芳昭

 北魏において、万葉仮名的な鮮卑文字が使われていた可能性を間接的に肯定し、その意味を説いたもの。可能性という点で中国史のなかの諸民族(山川出版社)の中で川本氏によって触れられていたもので、本書の中でもとくに読みたかった一論。資料状況により推論であるとのことだが、新しい文字資料が次々と出て来る中国のこと、実物の出現を夢見たいところ。


モンゴル帝国の国家構造における富の所有と分配---遊牧社会と定住社会、中華世界とイラン世界---
 四日市康博

 モンゴル帝国における統治機構の複雑さを模式的なモデル化を試みたもの。ピラミット的な行政機構だけでなく諸王の領地などが入り乱れていた話は、既に概説書にも出て来る話だが、このようなモデル論はイメージという点で理解の助けになる。それでも全体像は複雑なもので、それが有効に機能しているところは、自分にはなかなかイメージできない。

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