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2008年8月24日

西夏と年号 その4

李元昊時代の年号 2

 その3の最後で、李元昊時代の年号について暫定的に次のように纏めた。

 開運:1034年、1年
 広運:1034年〜1035年、2年
 大慶:1036年〜1037年、2年
 天授礼法延祚:1038年〜1048年、11年


 まず、『宋史 夏国伝』で未紹介のところから。「寶元元年」(1038年)で始まる一文の次の段に以下の文がある。

 明年,遣使上表曰:
 臣祖宗本出帝胄,(中略)。遂以十月十一日郊壇備禮,為世祖始文本武興法建禮仁孝皇帝,國稱大夏,年號天授禮法延祚。
これは、明くる年、つまり1039年に、「臣」李元昊が宋の皇帝に送った上表文である。10月11日に儀式を行って皇帝になり、国名を「大夏」にして、年号を「天授禮法延祚」としたことなどが記されている。前段の「寶元元年」の一文の中に「即皇帝位」という文言が見られるので、李元昊は1038年の10月に即位して、翌1039年に宋へ上表文を送ったと解釈できる。

 これによって天授礼法延祚への改元が1038年の10月のこととなるが、大慶に3年目があったことになって上の纏めがあっさりと崩れる。しかし、『宋史 夏国伝』にはこれ以上の情報がないので、違う資料に当たる事になる。


 次に利用するのが、『続資治通鑑長編(下記参照)』。この中には、李元昊時代の年号に関係するものは3か所あるが、最初の巻第115の部分は、その3で紹介した広運への改元とほぼ同じ内容なので省略。他の2か所を次に示す。

 巻第119、景祐3(1036)年12月の部分。

 趙元昊(中略)。私改廣慶三年曰大慶元年。
広慶3年を大慶元年に改元したとのこと。「趙元昊」とは、李元昊のこと。祖父の時代に宋から「趙」という名字を与えられているため、『続資治通鑑長編』では一貫して李元昊を趙元昊と記している。「私改」とあるのは、年号は宋朝が制定した年号だけが唯一正しいのであって、李元昊が私的に勝手に改元したのだという意味に解釈できる。

 巻第122、宝元元(1038)年の10月の部分。

 趙元昊築壇受冊,(中略)改大慶二年曰天授禮法延祚元年,(以下略)
大慶2年を天授礼法延祚元年に改元したとのこと。この一文は、上記『宋史 夏国伝』の10月11日のことと同じ事件を記している。


 まず、一文目に「廣慶」という未出の年号が出てくる。これについて、李華瑞氏は『西夏紀年綜考』(宋夏史研究/天津古籍出版社 2006年)の中で、「(広慶の慶は)運の誤りとすべきである」としている。広運が正しいとすることに見解が一致しているようで、異論はまだ見たことがない。

 つぎに、二つ目の文に「大慶二年」とある点。巻第119の大慶への改元を正とすれば、1038年は大慶3年になるが、これを誤りと指摘したものは見当たらない。いくつかの資料を見た限り、ほとんどが1038年を大慶3年・天授禮法延祚元年と書いているので、これも定説化しているということだろう。


 『続資治通鑑長編』を有効とすると『宋史 夏国伝』が間違いということになるが、『続資治通鑑長編』の記述が具体的で、有効な反論材料が見当たらないことから、広運、大慶どちらも3年あったとする方に分があり、広く受け入れられているように見える。また、改元された月については明記していない資料もあるが、『中国歴史紀年表』(上海人民出版社 2007年)などは『続資治通鑑長編』に従っている。以上を纏めると次のようになる。

 開運:1034年、1年
 広運:1034年〜1036年12月、3年
 大慶:1036年12月〜1038年10月、3年
 天授礼法延祚:1038年10月〜1048年、11年

 これには反論の余地はないのだろうか。次回少し検証してみる。


< 続資治通鑑長編 とは >
 宋史などのいわゆる正史は、紀伝体という形式で書かれた歴史書だが、これに対して編年体という形式で書かれた歴史書の代表に資治通鑑がある。古代から10世紀までを纏めた資治通鑑に対して、その続編とも言えるものがいくつか纏められた。『続資治通鑑長編』はそのひとつで、12世紀の後半に李燾によって纏められた。本来は980巻有ったというが、今日には520巻だけが残されていて、中華書局から12,391頁、20冊本として出版されている。

 北宋時代の歴史書だが、西夏についても多くの記録が残る。加えて、宋史よりも200年近く早く成立していることもあり、西夏の歴史を考える上で重要な資料のひとつとなっている。


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