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2008年8月 8日

(書評)モノから見た海域アジア史

九大アジア叢書 11
モノから見た海域アジア史
モンゴル〜宋元時代のアジアと日本の交流
四日市康博 編著
ISBN978-4-87378-966-8
九州大学出版会 2008.4

 本書は、文部科学省特定領域研究のひとつ、東アジア海域交流の中の海域比較研究の成果の一部として纏められたものとのこと。目次は、上記書名リンク先を参照されたい。目次にあるように、石材、木材、陶磁器、貴金属を素材として交易や交流を説き起こした5つの章と、各地の考古学者を中心とした8人と編者によるQ&A形式の対談を集録した第6章よりなる。Quiet NahooAbita QurMarginal Notes & Marginaliaやまやまの日々雑記の各ブログで紹介されたのを見て、面白そうと思い読んでみた。

 1から5章について、簡単には以下のような内容。第1章は、木材と組み合わせて使われた碇用の石材、碇石について。遺物として残る碇石の形やその広がりから、それを用いた船を想定してその交流の広がりを考察したもの。第2章は、仏教上の交流によって日本から宋へ送られた木材とそれに関わって交わされた文献に関わるもの。第3章は、貿易に関わった陶磁器の中でも交易品そのものとしてよりも、物を入れるために使ったとして著者が言うところのコンテナ陶磁について、その遺物の広がりや産地について考察したもの。第4章は、交易品としての陶磁器の中でも中国龍泉窯の青磁について、砧青磁と呼ばれる花瓶を中心にその盛衰を追ったもの。第5章は、モンゴル時代について中国から中近東に至る銀錠や銅銭の流れについての考察となっている。


 1から5章は、各30頁前後で本書が新書版ということもあり、さほど多い頁数ではない。しかしながら、特定の物に絞ることで、交流の状況を具体的かつ簡潔に纏めている。物としての範囲は狭いものの語られる地域としては日本各地から中国、東南アジア、中近東という広がりを持ちスケールは決して小さくない。自分の興味的にはどちらかというと二の次ということもあり、文化経済な領域は概念的抽象的に過ぎるとなかなか捉えきれないということが多い。本書は、その絞り方と読み易い文章で自分にも把握し易い内容になっている。その上に、碇石とか砧青磁とかどれもさほど馴染みのない物ばかりなので、思いのほか興味深く読むことができた。

 第6章は、上に書いたように対談形式で各4頁程度。やや短く物足りないと言えなくもないが、絞ったテーマについてわりと先端的な考古学の話題が上手く纏められているように思う。こちらは、国内の考古学中心の話だが、硫黄、夜光貝、十三湊と7つきりのテーマながら興味深いものを並べている。


 本書は、文科省関係のプロジェクトものではあるが、論文集的な報告書ではなく、どちらかというと一般向けを意識した入門書という内容。タイトル通りで、特定のモノから海域を通した交流を見て行こうというもの。自分には、その物が具体的にあることでその交流の流れが想像し易い内容だった。考古学的な話が中心なので、波乱も盛り上がりもない話ではあるが、プロジェクトに意図されているような内容を伝えるための入門書として、十分に面白い一冊だった。

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