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2008年8月26日

(書評)世界史を書き直す 日本史を書き直す

懐徳堂ライブラリー 8
世界史を書き直す 日本史を書き直す
阪大史学の挑戦
懐徳堂記念会編
ISBN978-4-7576-0473-5
和泉書院 2008.6
目次は、上記書名リンク先を参照

 本書は、大阪大学に籍を置く(置いていた)6名の研究者がそれぞれ異なるテーマを設定して、歴史を見る上での新しい視点を示そうというもの。発売されて2か月ほど、既にAbita QurMarginal Notes & Marginaliaなどで取り上げられているが、未読本に囲まれた状況でやっと読むことができた。

 各章の内容を乱暴に要約する。イギリスの産業革命について、中国、インド、アメリカなど世界的な物の流れを見ながら捉え直そうとする1章。10世紀の敦煌での農地所有に関わる訴訟文書を読み解きながら、オアシスに暮らす人々の生活や、祁連山山麓で遊牧する人々との関わりの復元を試みた2章。世界史という広がりを説く上で、海上貿易が果たした役割をアジアを中心として概説的に問い直す3章。武士が台頭した時代という中世像に疑義を示し、神仏習合を中心に宗教パワーを問い直すことで新しい像を示そうとする4章。17世紀に相次いで生まれた清朝と江戸幕府という二つの軍事政権について、その類似性を検証しながら両国の新しい歴史像の提示を試みる5章。19世紀後半から20世紀初めにかけての全盛期イギリス帝国像を政治、経済、軍事などの特徴的な部分を絞りながら、アジア、特に日本との関わり方を捉え直そうとする6章。


 6つの内容は、日本だけを扱ったものが1つ、日本も関わる世界史が3つ、日本が出てこないもの2つという組み合わせで、全体としては時間的空間的な網羅性も特異性もない。文章などの体裁も著者の個性そのままという感じでばらつきがあるが、それが悪いとは思わなかった。新しい視点を提示するという抽象的な企画に、意欲的な文章をオムニバス的に集めたという一冊と見る。

 対象として一般読者が強く意識されたもので、素材的に多少とも難のあるものを、いかにして読み易く纏めるかという工夫が読み取れる。その工夫の仕方もそれぞれ。特に個性的なのが、「帰ってきた男」というタイトルからして思わせぶりな2章。訴訟文書という論文として書かれれば文章読解か類例比較で終わりそうな素材を、想像を膨らませてストーリーを組み上げている。それでいて、実証的な世界からさほど外れていないというなかなかの力作に見える。


 書名からして意図的だが、6章で230頁という量も力まずに読める厚さを意図して絞ったものと思われる。また、オムニバス的とはいえ各章が結構面白かったので、それほどバラバラという印象は残らなかった。

 扱っている時空は結構広いので、章によっては自分の守備範囲をかなり越えている。イギリスが関わる1章と6章、中世日本を扱った4章が特にそうだが、さほど大袈裟な印象は受けないものの、限られた頁数に納める為に単純化している可能性は残るので、機会と時間があればより詳しい本に当たってみたい。

 とはいえ、意図に見合った面白い一冊という評価でどうだろう。歴史好きな者にとってより視野を広げる為の素材として、お薦めめできる一冊と思う。

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