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2008年10月25日

リニア中央新幹線 Bルートが無理なわけ

 リニア中央新幹線と長野県から続きの話。

 前回も書いたように、長野県の主張の中には「地域振興」という言葉が何度も出て来る(例えば、信州・フレッシュ目安箱 2008年5月7日回答)。「地域振興」のみを理由として地元に利があるというルートを主張しているのである。以下で述べるように、この主張にはほとんど理が無いと自分には思える。


 東海道新幹線は、東京から名古屋へ毎日走っているのぞみ号が片道70本、座席数で9万席を越える。これは、一日18本の特急あずさ号のほぼ10倍にあたる。これは座席数の話なので、利用率なども加味すればあずさ号の東京諏訪間の輸送量は相当に小さいと予想できる。

 一方で東海道新幹線はそれでも不足とされ、増発が計画されている(ダイヤ改正で「のぞみ」増発へ)。これだけの需要があれば、首都圏と中京圏の直結を第一義的に考えることには十分に理があるだろう。ついでに地元もという話ではなく、まして迂回してまでというのはかなりの逸脱である。


 リニア新幹線東京名古屋間の建設費5兆1000億円に対して、諏訪へ迂回した場合に増える建設費はおよそ7000億円以上(リニア中央新幹線を諏訪へ)で、全体の7分の1にあたる。地域振興を名目とした額としては、あまりにも大きい数字ではないか。

 Bルートに決定した場合にこの追加建設費を誰が払うのか。JR東海が得られる利益が限られるなら、地元負担という声が出るのは当然である。長野県のホームページには、この膨大な建設費については何も書かれていないし、知事や関係者の発言としても自分はまだ聞いたことが無い。

 長野県の予算規模は、歳入総額が8330億円で支出の内一般公共事業費が794億円(平成20年度の予算の概要)。開通が17年後として、20年分割で払ったとしても毎年350億円以上という額を長野県が払い続けるのは不可能に見る。

 そうすると、長野県は国の予算をあてにしているということだろうか。ところが、国の2008年度整備新幹線予算が706億円(平成20年度予算政府案 総務省)で、目下東北、北海道、北陸、九州と各地の新幹線が建設の途中にある。さらに、全国新幹線鉄道整備法第13条によれば、「機構」の建設費用を国と都道府県が負担するとあるだけで(機構とは、鉄道建設・運輸施設整備支援機構のこと)、JR東海が自前で建設する場合は想定されていない。


 他にもBルートの無理を挙げることが出来る。長野県の主張は、すなわち諏訪、上伊那、飯田と3つ駅を設置することを目指しているということだ。東海道新幹線で名古屋新大阪間はのぞみで50分かかる。名古屋新大阪間には、現在3つの駅がある。すったもんだの末に中止になった栗東を入れても4つ。

 直通を主体とする列車を走らせる上で、中間駅の増加はダイヤ設定の妨げになる。東京名古屋間は、JR東海の計画でおよそ40分という。今の東海道新幹線と比べると、長野県だけで3つの駅を造ることは、鉄道の輸送技術的にかなり無理があることと思う。

 また、迂回すると50kmほど長くなるので時速500kmで6分、実際には迂回するとカーブが増えることから、もう少し長く10分近く所要時間が延びることになる。東海道新幹線がJR発足以降数分の所要時間短縮にしのぎを削ってきたことを考えると、決してたかだか10分とは思われない。


 JR東海に利が無いにもかかわらず、「国民経済の発展」「国民生活領域の拡大」「地域の振興」という「新幹線鉄道網の整備」の3つの目的の1つだけを根拠に迂回を主張することは、無駄と言い切ってよいのではないか。つまり、Cルートが技術的に可能である限り、Bルートになることはあり得ないのである。

 長野県に残されているのは、Cルートが環境破壊であると主張することだろう。ただ、仮にそうであったとしても、既に利益誘導のために無理に「我が儘」を主張している実態を見せてしまった以上、環境環境と言っても白々しく見えるので、少なくとも声高に叫ぶのは止めた方が良い。加えて、一連のニュースによって長野県の評判がどれだけ落ちたのかということも真剣に考えて欲しい。


<追記> (10月26日)
 10月24日付けで、長野県のHPにリニア中央新幹線関連の情報がアップされていました。それについてリニア中央新幹線 知事の質疑応答ほかをアップしました。

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コメント

一民間企業の利益より「国」「地域」の利益を優先してください。
それとも「長野県」は日本国ではないとおっしゃりたいのですか?CルートよりもBルートの方がより多くの地域を回ることが出来る。

JR東海の金儲けで「公共鉄道」をゆがめないでください。

投稿: | 2008年12月27日 10時10分

名無しさま
コメントありがとうございます。

無条件で批判しているわけでも、JR東海を弁護しているわけでもありません。
あくまでも程度の問題として、自分なりの条件整理と分析をした結果から申し上げているにすぎません。


「Bルートの方がより多くの地域を回ることが出来る。」

というのも、意見のひとつとしては十分に検討に値すると思います。
問題なのは、それが技術的に可能であって、あるていどの投資効果に見合うかどうかということです。

従来の新幹線よりも高速で運転するリニア新幹線では、短距離に駅を複数建設することは、技術的(運転、営業、建設など)にかなりの困難があるというのが一点。
莫大な建設費の投入に見合わないというのがもう一点。
この2点が非常に大きく、今のままではBルートは困難であると考えているわけです。

また、JR東海として早期の建設の必要性を説いていることに、一定の理があると考えていますが、現状で長野県の主張を受けることは、この早期実現の妨げになる可能性があることも問題点と考えています。


以下も合わせてお読み頂ければ、私の分析の可否をよりご判断いただけるかと思います。

リニア中央新幹線 Bルートが実現する可能性 その1
http://samayoi-bito.cocolog-nifty.com/mutous/2008/11/b-1-8d73.html
リニア中央新幹線 Bルートが実現する可能性 その2
http://samayoi-bito.cocolog-nifty.com/mutous/2008/11/b-2-10a9.html

投稿: 武藤 臼 | 2008年12月27日 12時40分

これから起きることの予言
(小泉改革や大企業に夢見たネットコミュニティの末路の法則)
JR「Cルート実現にご賛同頂きありがとうございました。」
オマエラ「アッタリマエっすよーっ!」
JR「さて今後の運用ですが、Cルートも出来たことですし、中央リニアで東京と名古屋は高速に移動出来ますので、従来の東海道新幹線のぞみの役割はCルートの
中央リニアに移し、東海道新幹線は各駅停車こだまを中心とした運用にいたします。」
オマエラ「えっ!?えっ!?」
JR「ご存知の通りCルートの狙いは東京名古屋を速く結ぶことですからこれは合理的な判断です。かつての東海道本線がローカル通勤線に降格したのと同じです。」
オマエラ「そんな説明、聞いてなかったよ!」
JR「さらに、東京名古屋間の中央リニアはスピードアップしたので、そのぶん価値が上がりますので、新幹線から値上げします。」
オマエラ「えーっ!?」
JR「のぞみが登場してひかりより速くなった時と同じです。」
オマエラ「騙された!そんな値上げ、納得いかね!」
オマエラ「東海道新幹線を故意に遅くして中央リニアに客を誘導して
さらに数千円値上げとか、私企業の横暴だ!鉄道の公共性をわかってない!」
オマエラ「JRはオレらが納得するだけの丁寧な説明をしろ!資料を出せ!」
JR「うるさいな、オマエラ、口出しするならカネを出せよ。」
奥田「ゴホン!」
JR「あ、大企業の優待切符のほうは、もちろん配慮させて頂きます!」
オマエラ「ふざけるな、俺たちだけ値上げして、大企業は実質据え置きかよ。」
JR「いままでも大企業は特約チケットがあったんですよ、知らなかった?」
オマエラ「鉄道の公共性!説明責任!鉄道事業は国家プロジェクトだ!」
オマエラ「私企業の金儲け優先の勝手な論理を許すなーっ!」

※JRが信越本線の横川軽井沢間を廃止し長野新幹線に置き換えたときにネットコミュニティが口にした屁理屈は「スピードと効率ばかりが 優先される世の中で良いのだろうか」「利益優先で地元を切り捨てるJR」「横川を見捨てるな」です(爆笑)。

投稿: | 2009年8月27日 22時04分

そのシナリオがあり得ると考えている程度には、JR東海を信用してはいません。
いずれそのことは書くつもりです。
JR東海を擁護する為に書いてるわけではなく、あくまでも長野県側の姿勢に対する批判を中心に展開してきました。

文章が拙くて伝わってない部分は多々あるとは思います。

ただし
ネット上の言論をネットコミュニティーとしてひとくくりにする事には組で来ません。
少なくとも、ここは世に沢山ある意見のたった一つであって、ネットも紙も口コミも手段に過ぎないので。

投稿: 武藤 臼 | 2009年8月28日 08時36分

長野県で調整できないのならば,静岡県の山岳部を通せば良いのに.距離は変わらないですよ.

投稿: | 2009年11月13日 14時38分

JR的にはそれでも良いのでしょうが
山梨や岐阜・・・とくに岐阜県内を経由することが難しくなります

交通政策論ではなくて政治力で話なのはまったくつまらない話ですが、今度は岐阜県が県を上げて絶対通せと運動するでしょうねえ^^;

投稿: 武藤 臼 | 2009年11月15日 18時57分

長野県下伊那郡出身者です。
長野県の主張は、極めて身勝手な主張だと思います。

日本地図に路線を引いた時、Bルートは異常な曲線を描いています。

それに比べてCルート(直線)は、極自然の線形をしています。。

Bルートの線形は、一部長野県民の利己的な象徴の様に思えて仕方ありません。

何処かの市長がノンビリ伊那谷を下るのも悪くないからBルートを押すという様な事を聞きましたが、全く的外れな思考回路を疑わざるを得ません。

Bルート肯定者の意見は、何の合理的根拠がない事は明白です

投稿: たーさん | 2009年12月27日 16時14分

たーさん
コメントありがとうざいます

長野県側の対応については問題山積という状況にみえます。
もう少し纏めてみたいことがありますので準備していますがちょっと手間取ってます。

長野が批判されるわりにはJR東海についての評価はあまり聞きません。
そもそも論も含めて、本当にJR東海のことは肯定できるのか、このことももう一度整理を試みてみたいですね。

投稿: 武藤 臼 | 2009年12月28日 01時37分

JR東海の金儲けで「公共鉄道」をゆがめないでください。
>>JR東海は民間企業ですけど。
公共的な意味合いを言うのなら、3セクでリニア迂回路作ればいいじゃないですか?
どこの民間企業が数千億円も上乗せして利益の上がらない路線を建設しますか?そんなことをすれば赤字国鉄時代に逆戻りです。
現状でも諏訪地域は十分すぎる程、自動車の高速網が発達していますが、地域が発展するのにこれ以上何が必要ですか?日本には十分な高速網、旧新幹線1路線すら無い県もありますが、それを2つ3つと考える感覚はおかしい。長野県は特別ではない。次は国際空港と言い出しそうで不安です。作りたいなら、自分たちのマネーで存分にどうぞ。

これから起きることの予言を読んでの感想
>>A,Bルートに置き換えてもこのやりとりは成立すつんじゃないの?(いや建設費がかさむだけ、運賃への転嫁はCルートより多くなるかも)Cルート否定の理屈になってないよ。

JR東海は航空機に対抗する意味合い、東海震災時のバックアップ路線の建設、と現新幹線の老朽化による大規模補修が必要になることを想定した上で、今回のリニア計画を打ち出しています。私はこのことについては民間企業としては至極妥当な判断と思っていて、Cルートを押すのも当然と思えます。今のJR東海は新幹線の稼ぎで他の不採算路線を養っているようなもの。新幹線の黒字幅が減少すれば、保有しているローカル線(例えば、飯田線)を廃止せざるを得なくなるでしょう。リニアが地方に停車しないことで、地元の切捨てというのは余りにも先を見越していない議論と思います。

私は今の長野県に言いたいのは、そんなにA,Bルートにこだわるのなら、民間企業のJRでなく国に頼んで作ってもらいなさいということです。実際長野新幹線もそうやって作ったのだと思いますが。要は交渉する先が筋違いということです。
事前調査では南アルプス山岳部も南部ほど地盤が安定しているようだし、静岡県北部を通って豊田市に出るDルートの方が結果的には安くつくのではと思います(豊田市にはトヨタ本社もあるし需要も見込める)。

投稿: もぐたん | 2010年1月 9日 02時23分

もぐたんさん
コメントありがとうございます。

JR東海の方針は、おっしゃられる点について、自分的にもある程度までは首肯できます。
ただし、選択肢としてリニアしかないのか、利用者にとってメリットデメリットがどうなのかなどの点、まだ検討の余地が多々あるように考えています。

また、JR東海の経営がその多くを東海道新幹線に依存しているのは事実ですが、ほぼ独占状態にある状況において本当に利用者にとっも適正な状況にあるのか、またリニアの建設費を自社で賄う、つまりは国内の東西を移動する人に利用料として転嫁することが、国内経済などもうすこしマクロに眺めて適正なのか、などの点ももっと議論できるのではないかと考えています。

投稿: 武藤 臼 | 2010年1月10日 09時46分

武藤さんレスありがとうございます。

ルートのことは置いておいて。
利用者側からすれば、効果は未知数でしょうか。
リニア+直線ルートにすることで所要時間は約半分になりますが、問題はどの程度運賃に転嫁されるかということになるでしょう。
倍になるならよほど忙しい人かお金持ちでないとまず使わないでしょうね。
すべては開通後の利用者数の伸びいかんと思います。現状東海道新幹線は飽和状態ですが、人口も減少傾向にある中、どこまで客足が伸びるかをJR東海も正確には掴んではいないのではないかと思います。(航空機の利用者からの乗り換えはある程度あるでしょうが)

東西を移動する人に利用料として転嫁することが適正かということに関しては、少し考えねばならないと思います。
東海道新幹線の黒字は半端なものではなく、そのおかげで、東海地区のローカル線は維持できているわけなので。
(もっとも、JR分割民営化の時にそれを見越して東阪間のドル箱路線たる東海道新幹線をJR東海管轄にしたのだけれど)
収益のあがらないローカル線をことごとく廃止すれば、現在の新幹線の運賃だってかなり安くなると思いますが、それはできないでしょう。
例えば、JR東日本には山手線というドル箱路線がありますが(これも独占状態。私鉄のハブ路線になっている)、この収益は東北や甲信越のローカル線の赤字の穴埋めに使われています。
いわば東京の人の払ったお金で地方路線が維持できているわけです。これらのローカル線を廃止すれば山手線の運賃もさらに安く設定できるわけですが、できませんよね。
安くできない以上据え置きくらいしか望めないのですが、現在の東海道新幹線は廃止されるわけではなく、運賃もきっと据え置きでしょう。
リニアができた上で利用者側で旧新幹線orリニアを選べるか、つまり旧新幹線で適正な運行数が維持されるかどうかが、不利益をもたらすかもたらさないかということになってくると思います。
(リニアには運賃転嫁されるが、旧新幹線にはされないということ。)

最後にやっぱりルートのことに関して一言。
きっとJR東海は中央東線沿い(A,Bルート)には通したくないと思いますよ。
ここはそもそもJR東日本管轄なので。
そう、諏訪の人はJR東日本にお願いしてリニア作ってもらえばいい。


投稿: もぐたん | 2010年1月12日 00時46分

もぐたんさん こんばんわ

私の記憶が確かなら・・・という話ではありますが、JR東海の社長が想定しているのは航空機からの移転です。値上げもコメントされていましたね。
まるで時間短縮による新規流動を想定していないかのようで、その点はJR東海にたいして自分は不信感を持ってます。

いくら会社の利益追求とはいえ、巨大なインフラを作ってそれが新しいものを産むことを想定しないということがありえるのか、またあって良いのか。

そういった意味でJR東海には、他にするべきことが有るのではないかという不信感もまた拭うことができません。


諏訪地方に関しては、有って無きがごとく交通政策です。語ってみたい方向性はありますが、果たして彼の地の因縁の内にあって実現できる力があるのかどうか、まずそこからのような気がしてます。

投稿: 武藤 臼 | 2010年1月13日 22時04分

一番気の毒なのは伊那市と駒ケ根市だ。この間cルートに決まって、俺もそのルートだとリニアの長所が活かせるからいいとおもう。だけど、bルートはあずさがあるからいいじゃないかって言われて撤回されたんだよね。でも梓は伊那市と駒ケ根市通ってないし。唯一ある飯田線の特急なんて滅多に走らない。各駅停車で飯田から伊那市まで行くととんでもないほど時間がかかる。

投稿: 肉 | 2013年9月24日 11時44分

肉さん
コメントありがとうございます。

そもそもとして、飯田線は伊那谷のどの町にとっても公共交通機関としてはほとんど機能していません。中長距離の公共輸送は高速バスが担っています。また、現状の飯田線には、実質的に意義のある活用論がありません。それらの点で飯田線は無いも同然です。そのことは、飯田市周辺にとっても変わりません。

今後、飯田線がどのように変化していくのかは、長野県と伊那谷の市町村にかかっています。JR東海に声だけの働きかけをしたところで何も変わりません。具体的な対策を沿線が立てて実行できるかにかかっています。

もう一点。リニア新幹線を鉄道として見ると見誤る可能性があります。伊那谷筋での輸送を一切担っていない点で、飯田に新しい空港ができる・・・と想定すると考え易いのではないでしょうか。飯田はリニアの駅に最寄りというだけで、どう利用すれば地域にとって価値を持ち得るのかという点では、駒ヶ根も伊那も大差ないと私は考えます。

投稿: 武藤 臼 | 2013年9月25日 06時41分

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