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2008年11月30日

(書評)対馬と海峡の中世史

日本史リブレット 77
対馬と海峡の中世史
佐伯弘次 著
ISBN978-4-634-54689-9
山川出版社 2008.4

 本書を買ったのは、Quiet Nahoo關尾史郎のブログの記事を見てからなので、夏前頃のことと思う。だいぶ積んどくままだったが、読んでみようと思ったのは先日の産経新聞の特集が少なからず影響した。東アジア交流史には必ずといってよいほど登場する島のこと、それなりに目に触れる機会はあったと思うが、タイトルに対馬の文字がつくものを読むのは対馬藩江戸家老(講談社 2006年)以来、随分とひさしぶりだ。

 同じ対馬の歴史モノではあるが、後日談的に書かれた最後の部分を別にして、本書の範囲は室町時代の初め頃から秀吉の朝鮮出兵までのおよそ250年あまり。朝鮮との関わりを中心にした対馬の交流史、経済史やそれに関わる政治史といった内容。

 本書では、対馬を訪れた朝鮮人が残した報告書や朝鮮歴代の実録、宗氏の発給文書などについて随所に引用がなされている。朝鮮と宗氏の間で交わされた約定、日本と朝鮮の両属に関わる問題、さらには交易品、対馬の人達の名前への漢字の当て字を使っての音写、当時対馬で活躍した人々などなど具体的な話が沢山紹介、解説されている。

 前から後ろへ時代が流れているように書かれているところもあるが、章や段のテーマによって話が前後しているところがあり、明瞭に通史という形にはなっていない。一方で、各段で設定されているテーマはやや広めな感じで、相互に関わってくる話が錯綜している部分を含み、テーマ切りとしてもやや不明瞭な印象。


 読み始めた時点では、本書は対馬を中心とした交流・外交史と思っていたので、読んでいる最中には不満はなかった。ただ、読み終わってみると、島主の宗氏と小領主との関係や歴代の宗氏の事績に多く触れているなど、対馬の中世史という位置づけが自分の予想していたよりも重かった。対馬の通史を読んだことが無い自分には新鮮な情報として面白かったのだが、もう少し対馬史か海峡史のどちらかに寄せて、テーマを強く出すか通史的にするかに絞ったほうがより纏まったのではとも思う。

 その意味でやや纏まりに欠く印象があるものの、詰め込むわけでも超要約というわけでもなく、本文102ページという量に程よい内容という印象もある。元寇と秀吉という大きな戦いの間にあって、政治史的な華々しさ少ないものの、対馬と海峡の歴史という主題にとっては、むしろより複雑で面白い時代という意味付けも可能だろうか。対馬、あるいは国境の島とその海について、こういう時代もあったという実態を知る上で有用で興味深い一冊だった。


<目次>
  中世の対馬と海峡
 1 応永の外冦から平和通交の時代へ
 2 外交官・通交者・商人・海民
 3 三浦・後期倭冦・遺跡
  近世へ、そして現代へ

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