« 韮山城と興国寺城 | トップページ | 信州まつもと空港 日航路線廃止か »

2009年9月14日

今週のシュトヘルより「名前」

 6月に11話に触れ以来3ヶ月ぶりとなる。月一でゆっくりと連載が続いていて今週号でやっと14話。取り上げられそうな話題の無い小競り合いが一息、今週号では西夏文字がいくつか出て来たのでそれを取り上げる。

 場面は、モンゴルの皇子ユルールが主人公の話を聞きながら亡くなった仲間の名前を西夏文字で書き留めて行くところ。この場面で主人公は、

「わたしの仲間の名前は…この文字が、覚えていてくれるのか。」
とつぶやいた。ここを読んで自分は、映画『敦煌』の中で佐藤浩市演じる趙行徳が仲間の名前を書いて行くシーンを思い出した。もっとも、行徳が使った文字は漢字で彼の仲間は漢人部隊なので、ショトヘルとの共通性は西夏が舞台というだけなのだが。


 さて、この場面では以前の話に登場した屈漢(クイハン)の他に、賀蘭金(ヒンランキ)、乞牟巴(キムパ)の名前が出て来る。さらにユルールに西夏文字を教えたという玉花(イファ)の西夏文字表記も登場する。西夏文字の字典を引いてみると、この4人の名前はなかなか興味深い。

 玉と花の西夏文字は、どちらも西夏文字として「玉あるいは玉壁」、「花あるいは華」という意味を持つ文字。その点だけ考えれば、玉花はタングート系の西夏人、いわば生粋の西夏人と言えるだろうか。

 賀蘭金は、寧夏自治区の区都銀川の西に連なる西夏にとっては聖なる賀蘭山の名前「賀蘭」に、ゴールドの意味の「金」。これも、賀蘭山麓周辺に住み着いたタングート系西夏人の名前と見ておきたい。

 次に乞牟巴。乞には乞という意味は無く、牟と巴はそれぞれの音写文字である。といってもキムパという響きは、漢族の名前とは思えない。チベットっぽい響きに思えるのだが、残念ながらこの名前がチベット系と言える資料も知識も持ち合わせていない。もちろん、韓国語という落ちも無し。とりあえず、漢族でもタングートでもない他の部族出身と推定しておく。

 屈漢は、以前に話題になったように漢系西夏人と見なしておく。


 とりあえず玉花は置いておくとして、主人公の仲間とされる屈漢、賀蘭金、乞牟巴の3人は、名前を読む限りはそれぞれに異なる出自を持っていると想定できる。タングート、漢だけでなく、チベット系やトルコ系、モンゴル系、ソグドなどが混じっていたと思われる西夏について、たった3つながら面白い名前を選んだものと感心している。


 次回は、10月19日発売号に掲載とのこと。また、「10.30 VOL.2」という広告が出ていたので、来月末には単行本の第2巻が発売になる。

|

« 韮山城と興国寺城 | トップページ | 信州まつもと空港 日航路線廃止か »

西夏史」カテゴリの記事

コメント

今回はサブタイトル通り、西夏文字大活躍でしたね!
ほぼ的確な解説を先取り?されてしまったので、コメントできるのはわずかです(汗)>私

「玉花」を表す西夏文字の推定音を見る限り、これは西夏文字成立以前の漢語からの借用でしょうかね?タングート特有の語とするのは若干疑問があるところです。
いずれにしても実際の西夏女性名は記録が少ないので、人名としての「玉花」はフィクションとお考えください。
ちなみに「花」を表す西夏文字の、真ん中の要素は「〒」ですが、この部分が「干」だと「夜」を意味する西夏文字になります。
私はそそっかしいのでよく誤読してしまいます(笑)

「乞牟巴」は西夏語音を漢字で音写したものですが、さらにその西夏語もチベット(系の)言語を音写した可能性が高いですね。
1,2文字目はよく音写に使用されます。
また最後のパはチベット語の文法要素-paに相当するかと思われます(パス「パ」、ツォンカ「パ」など参照)。
とはいえ、khi muに相当するチベット語は私も存じておりません。。

投稿: 某勉強会会長 | 2009年9月15日 23時23分

某勉強会会長さん
コメントありがとうございます

音写以前の借用・・・
奇麗サッパリ外してしまいました。
生粋の西夏人というのは、名前の判断としては言い過ぎですね^^;

名前といえどいろいろなパターンがあるもので
今回も楽しい勉強をさせて頂きました。

投稿: 武藤 臼 | 2009年9月16日 07時43分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/162739/46214007

この記事へのトラックバック一覧です: 今週のシュトヘルより「名前」:

« 韮山城と興国寺城 | トップページ | 信州まつもと空港 日航路線廃止か »