2010年1月 9日

(書評)ルワンダ中央銀行総裁日記

中公新書 290
ルワンダ中央銀行総裁日記
増補版
服部正也 著
ISBN978-4-12-190290-0
中央公論新社 2009.11


 本書は、日本銀行員であった筆者が1965年から71年までの6年間、国際通貨基金の依頼でルワンダ中央銀行の総裁を勤めた時のことを纏めたもの。だいぶ以前に名著との推薦文を読んだことがあったが、長く絶版状態で実に37年ぶりの増刷となりやっと読むことだができた。

 本書によれば、筆者が担当した事案は総裁としての中央銀行の立て直しや通貨改革に留まるものではなかった。国全体の経済を立て直すため、貿易から国家予算、金融政策、さらには新規事業の開拓や農業振興、およびそれに伴う立法と多岐に渡る。わずか6年の間にここまでできるのかと驚く内容だった。

 アフリカの年から10年も経たない時代に、白人の存在に気圧されることなく現地の実情を見据えた冷静さや、援助国の挨拶回りから国内の個人対応まで直接手がける行動力、さらにはその際に見せる現実主義的な側面など、支えとなった思想信条的な部分をとても興味深くみることができた。手法について揚げ足を取ることは可能かもしれないが、半世紀を経てなお学び取れるものの多さを評価したい。


 増刷に当たって増補された部分を除いても298ページと新書としては厚い部類。中身は事業報告と日記を一般向けに書き直したという雰囲気のもので、6年分の内容を集録するのに枝葉の話が相当に割愛されていると想像できる。登場人物に関わるエピソードも全体の中からすれば少なく、またルワンダという国の歴史や現状など概要的内容も必要部分に絞られていて多くはない。

 それでいて大部な内容というのは、筆者が総裁を勤めたことに留まらず、大統領の信任によって経済全般に渡って多岐な事案をこなした結果と捉えることができるだろう。章の構成は主要な事案の流れが中心で、時系列としての流れはあるものの前後するエピソードが多く、重複したり章を越えて飛んでいる部分も見られる。

 また、主務が金融ということもあり、金融、会計などの専門用語が散見されるものの説明はほぼ皆無。それでいて読み辛いというわけではない。用語の理解を諦めて飛ばしたということはあるが、文学的な要素の低い内容にもかかわらず読み進めるのにさほどの努力は必要とはしなかった。社会的な背景を除いてしまえば、決して古さを感じない興味深い一冊だった。


 なお、著者服部氏は1999年に81歳で亡くなっている。巻末の増補1については、中央公論1994年10月号に掲載された同名の一文を転載したものとのこと。以下に目次を抜粋した。

I 国際通貨基金からの誘い
II ヨーロッパと隣国
III 経済の応急処置
IV 経済再建計画の答申
V 通貨改革の実施の準備
VI 通貨改革の実施とその成果
VII 安定から発展へ
VIII ルワンダを去る
増補1 ルワンダ動乱は正しく伝えられているか
増補2 「現場の人」の開発援助哲学(大西義久著)

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2008年12月13日

(書評)倭国大乱と日本海

市民の考古学5
倭国大乱と日本海
甘粕健 編
ISBN978-4-88621-454-6
同成社 2008.10

 考古学的に古代日本の日本海側という内容に惹かれて買ってみた。図版が多いので専門性の高い概説書と思っていた。前書きによれば、本書は2007年に新潟市歴史博物館で4回にわたって行なわれた講演会の記録とのころ。その4回が、本書の1章から4章に対応しているおり、その4つは下記のとおり。従って、本書は書き起こされたものではなくて、テープを起こして編集したものとのこと。

 内容は、弥生時代から古墳時代についてのもので、出雲から越後までを考古学的な特徴から4エリアに分けている。各担当者によって、古墳や集落の遺跡とそれに関連する出土物などからそれぞれの地域の特徴などが解説され、さらに歴史的な解釈が加えられている。

 もう少し具体的な内容としては、四隅突出型墳丘墓についてや高地性集落についての詳しい解説、墳墓・古墳の出現状況や高地性集落の分布範囲の解説があり、4エリアにはわりと明確な違いがあるとのこと。出雲と丹後の違い、あるいは出雲と越前の関係といった点はとくに興味深かった。また、その流れは会津にも及んでいるとのこと。


 自分的には、四隅突出という名前とその出雲地方における特異性を聞いたことがある程度だったので、本書はかなり新鮮なものとして読んだ。四隅突出型墳墓の出現過程についての仮説、北陸地方における高地性集落の分布が新潟県まで広がっていること、またその具体的な遺跡の紹介。さらに、新潟地方と会津との関係、北海道との関係が示唆される遺跡が新潟に分布しているといった点は特に興味深いものだった。

 また、考古学から歴史を復元するという試みが語られている。日本海に沿っての展開や高地性集落の意義、大和朝廷の拡大など関連するテーマは沢山あり、それぞれの担当者が個々に仮説を展開されている。その中には、なるほどと思われるものもあるが、やや想像を膨らませて語り過ぎと思わせるものも含まれている。ただし、それは本書の企画として許容したものの内ということのようだが、考古学から歴史を復元する難しさの一端が見えたようにも思う。


 このシリーズについて、自分が読むのは本書が初めてなのだが、「市民の考古学」とあるように一般向けに考古学を興味深く解説するという意図が十分に伝わっているように思う。本文140ページあまりとさほど厚くはないものの、内容はその割に豊かで十分に興味深いものだった。細かいことだが、遺跡についての図版は沢山収録されているが、関係する地名を紹介する広域の地図がもう少し必要だったのではと思う。

<目次>(主題と担当者のみ)
1. 四隅突出型墳丘墓と出雲世界
 渡辺貞幸
2. 弥生・古墳時代前期の丹後地方
 石部正志
3. 弥生・古墳時代前期の越前・越中
 橋本澄夫
4. 越後・会津の情勢
 甘粕健

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2008年11月30日

(書評)対馬と海峡の中世史

日本史リブレット 77
対馬と海峡の中世史
佐伯弘次 著
ISBN978-4-634-54689-9
山川出版社 2008.4

 本書を買ったのは、Quiet Nahoo關尾史郎のブログの記事を見てからなので、夏前頃のことと思う。だいぶ積んどくままだったが、読んでみようと思ったのは先日の産経新聞の特集が少なからず影響した。東アジア交流史には必ずといってよいほど登場する島のこと、それなりに目に触れる機会はあったと思うが、タイトルに対馬の文字がつくものを読むのは対馬藩江戸家老(講談社 2006年)以来、随分とひさしぶりだ。

 同じ対馬の歴史モノではあるが、後日談的に書かれた最後の部分を別にして、本書の範囲は室町時代の初め頃から秀吉の朝鮮出兵までのおよそ250年あまり。朝鮮との関わりを中心にした対馬の交流史、経済史やそれに関わる政治史といった内容。

 本書では、対馬を訪れた朝鮮人が残した報告書や朝鮮歴代の実録、宗氏の発給文書などについて随所に引用がなされている。朝鮮と宗氏の間で交わされた約定、日本と朝鮮の両属に関わる問題、さらには交易品、対馬の人達の名前への漢字の当て字を使っての音写、当時対馬で活躍した人々などなど具体的な話が沢山紹介、解説されている。

 前から後ろへ時代が流れているように書かれているところもあるが、章や段のテーマによって話が前後しているところがあり、明瞭に通史という形にはなっていない。一方で、各段で設定されているテーマはやや広めな感じで、相互に関わってくる話が錯綜している部分を含み、テーマ切りとしてもやや不明瞭な印象。


 読み始めた時点では、本書は対馬を中心とした交流・外交史と思っていたので、読んでいる最中には不満はなかった。ただ、読み終わってみると、島主の宗氏と小領主との関係や歴代の宗氏の事績に多く触れているなど、対馬の中世史という位置づけが自分の予想していたよりも重かった。対馬の通史を読んだことが無い自分には新鮮な情報として面白かったのだが、もう少し対馬史か海峡史のどちらかに寄せて、テーマを強く出すか通史的にするかに絞ったほうがより纏まったのではとも思う。

 その意味でやや纏まりに欠く印象があるものの、詰め込むわけでも超要約というわけでもなく、本文102ページという量に程よい内容という印象もある。元寇と秀吉という大きな戦いの間にあって、政治史的な華々しさ少ないものの、対馬と海峡の歴史という主題にとっては、むしろより複雑で面白い時代という意味付けも可能だろうか。対馬、あるいは国境の島とその海について、こういう時代もあったという実態を知る上で有用で興味深い一冊だった。


<目次>
  中世の対馬と海峡
 1 応永の外冦から平和通交の時代へ
 2 外交官・通交者・商人・海民
 3 三浦・後期倭冦・遺跡
  近世へ、そして現代へ

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2008年11月23日

(書評)オスマン帝国500年の平和

興亡の世界史10
オスマン帝国500年の平和
林佳世子 著
ISBN978-4-06-280710-4
講談社 2008.10
目次は、本書タイトルのリンク先を参照

 これまでに読んだ興亡の世界史シリーズは、特定のテーマに拠った歴史論を展開するものが多く、通史的な構成の本は少数派のように思う。本書は、政治史のトピックや解説を並べるだけでなく、文化史や社会史、制度史などについての章や段があって、構成だけ見ると王道的な通史に見える。

 形としてはそう見えるのだが、中身は筆者の意気込みが伝わるなかなか興味深いものだった。オスマン帝国ものを読むのが久しぶりだからかもしれないが、筆者が前書きで書いた「近年の研究成果の一端を紹介する」という方向が随所に感じられた。以下、著者のこだわりとして面白かった点をいくつか紹介する。


 まずタイトルの500年。初代のオスマンから数えて第一次大戦までなら600年。本書は、19世紀初頭まで、バルカン半島における分離独立が進んだ頃までを多民族国家オスマン帝国の範囲とし、15世紀初頭までを前史として合わせて500年ほどとしている。


 多民族国家オスマン帝国という点は特に繰り返し述べられていて、例えば前書きには次の一文が載る。

 オスマン帝国は、「オスマン人」というアイデンティティを後天的に獲得した人々が支配した国としかいいようがない。
このような、国民国家成立以前の帝国に対する評価という点はかなり納得できる事で、今の時点として一般書ではこのくらい強調していて良いと自分には思える。

 このことは、その対称にあるオスマン帝国が遊牧民の国、あるいはトルコ人の国ということを否定することを含んでいて、それは本書の構成に端的に現れている。例えば『オスマン VS ヨーロッパ(講談社 2002年)』では、最初の一章で古代のモンゴル高原から建国までのトルコ人の西遷を説いている。それに対して、本書の一章はルーム=セルジューク朝の成立から始まっていて、中央アジアという言葉は辛うじて出て来るがモンゴル高原はでてこないという具合。


 また、構成という点でもうひとつ、通史として政治史の部分では細かい内容がかなり省略されていた。それは、例えば戦争の経過にはほとんど触れずに原因や結果の説明に費やすといったように。具体的な事例紹介を少し省き過ぎという感想を持ったが、読み終わった後はこれはこれで面白いとも思った。「近年の研究成果の紹介」ということの結果なのかもしれない。

 もう一点、社会史部分を中心として女性の登場する話題が相対的に多いという印象を受けた。このバランスもまた、自分には新鮮で面白かった。


 自分にとってオスマン帝国の歴史は、関心はかなりあるものの手が回らないという位置づけで、細かい部分にあまり踏み込めないのでザックリとした感想で終わる。本書は、そういう自分にとって新鮮な内容を含んだ意欲を感じさせるもので、具体的な内容にやや不足を感じるものの、通史の形をとったオスマン帝国論としてかなり面白い一冊だった。展開されている論について奇異な珍説というような印象を受ける部分は見かけなかったのだが、より詳しい方から見るとどうなのだろう。


 本誌挟み込みの冊子連載の「歴史を記録した人びと」の15は、森安孝夫氏執筆の「ペリオ 世界最高の東洋学者」。また、シリーズ次回配本は、13巻「近代ヨーロッパの覇権」、12月中旬予定とのこと。

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2008年11月 8日

(書評)青花の道

NHKブックス 1104
青花の道
中国陶磁器が語る東西交流
弓場紀知 著
ISBN978-4-14-091104-4
日本放送出版協会 2008.2

 ユーラシア史、とくに海を中心とした東西交流史の主要なアイテムとして登場する陶磁器。陶器と磁器の違いとか青磁や白磁がどんな物かくらいまでならなんとか分かる程度。本書を読むまで染め付けと青花が同じ物であることも理解していなかった。陶器屋の店頭で茶碗を眺めるのは好きだが、纏まった本を読んだことがなかった。

 本書は、書名を見て一度読んでみようと衝動買いした一冊。陶磁器の美術、考古、歴史について長年研究されてきた筆者が、その成果を一般書として纏めたもので、白磁にコバルトによって絵付けされた青花磁器を中心に、中国陶磁器の広がりを追っている。


 話は、ポルトガルにある王宮の「磁器の間」の天井を埋めた青花磁器から始まる。まず陶磁器についての研究史、青花磁器の起源、代表的な産地である景徳鎮の歴史と青花磁器を中心とした陶磁器の歴史に触れる。ついで、エジプトで発掘された大量の青花磁器、トプカプ宮殿のコレクション、琉球の青花磁器などの伝世品、出土品の内容や由来の話。そして、世界各地の沈没船から引き上げられたもの、草原地帯の遺跡から出土したものの話へと進み、世界を巻き込んだ青花磁器の発展とその発展的な終焉で終える。

 時代的には、唐の末期から現代までの1000年以上、場所的にもユーラシアの東西を中心にアフリカ、アメリカ大陸までに話が及ぶ。また、産地としては中国が中心で、景徳鎮だけでなく越州、定、龍泉、磁州、耀州などにも触れている。シリーズの規格どおりの一般書で、本文も250ページとそれほど厚くはないが扱っている範囲は結構広い。


 読み終わって思い返してみると、雑然とやや広い風呂敷に整理しきれていない内容という印象が残るが、政治抜きの文化・経済史の本としてかなり面白かった。内容的に一般書なのだが、陶磁器の種類については青花磁器以外については具体的な説明が少なく、カラー写真は最小限で、モノクロ写真もさほど多くなく、本書に度々登場する釉裏紅磁器とか紅緑彩磁器といった陶磁器の種類がどんなものなのかはさっぱりわからない。

 とりあえず字面からなんとなくイメージしながら読んでいたが、不思議とそれがあまり不快でなかった。まったく自分の主観なのだとは思うが。繰り返し出てきたので、用語としてだいぶ覚えてしまった。ネットを開けばいくらでも調べられることでもあり、それはそれで良いのかもしれないと思う。


 ところで、本書で言うところの「海のシルクロード」の向こうを張った「陶磁の道」と言う言葉は、何年か前にはテレビで聞いたように思うが、今も普通に使われているのだろうか。読後のイメージとしては、「海のシルクロード」よりもしっくりくるのだが。

 細かい部分では、ユーラシア周辺ばかりでなく南アフリカやメキシコにまで及ぶ話は自分には目新しく、世界各地の沈没船について触れた8章はとくに面白かった。


 扱う範囲と内容の広さのわりに読んでいてさほど重いとは思わなかった。また、沢山登場する陶磁器用語についての説明は、一般書というにはかなり不親切なのだがそれが不快ではなく、繰り返し引用されることで目にだいぶ焼き付いた。なんとなく陶磁器の世界に踏み入った気分になっている。

 本書の文章の力なのかどうかいまひとつ判断しかねているが、今まであまり感心のなかった世界について、もうちょっと踏み込んでみとうという気を起こさせた不思議な一冊だった。おかげで、先日立ち寄った博物館では他の展示そっちのけで青磁や白磁に見入ってしまた。


<目次>
 序章 王宮の天井を埋め尽くす青花磁器
 1章 「陶磁の道」研究のパイオニアたち
 2章 青花磁器の誕生
 3章 元代の景徳鎮窯
 4章 明代の景徳鎮窯
 5章 青花磁器は海を越えて
 6章 スルタンの中国陶磁コレクション
 7章 琉球王国に下賜された青花磁器
 8章 海に眠る中国陶磁器
 9章 草原世界へ広がる青花磁器の道
 10章 青花磁器のチャイナ・ブーム

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2008年10月30日

(書評)アフリカ・レポート

岩波新書 1146
アフリカ・レポート
---壊れる国、生きる人々---
松本仁一 著
ISBN978-4-00-431146-1
岩波書店 2008.12
目次などがこちらから見られます

 本書は、昨年朝日新聞を退職したという筆者が、長年の現地取材などを元に纏めたもので、2006年から08年にかけて朝日新聞紙上に断続的に掲載したレポートなどを加筆再編したものとのこと。

 1章は、農業がの国の経済を支えていたというジンバブエの話。白人敵視策をはじめとした場当的な政策と災害などに対する無策によって農業生産が大幅に減り、極度のインフレなどで経済が崩壊したという。2章は、アパルトヘイト撤廃から10年余りを経た南アフリカについて。国が警察力を中心とした治安維持に国が関心を持たなかったがために、極度に治安が悪化しているという。1、2章に共通しているのは、無策や収奪、収賄といった政府の腐敗という問題。

 3章は、アフリカ各地に進出する中国人の話。中心は、一旗上げること目論み南アフリカで小売業を営む人々。年に1万人を越える中国人が移り住み既に数十万人が暮らしているという。中国人が現地経済を握るという一面マイナスな話、利益を出すために苦労している中国人のことなどが紹介されている。

 4章は、アフリカ各地から母国を離れ、パリと東京で暮す人々の話。在日アフリカ人の4分の1がナイジェリア人という。

 5章は、アフリカ各地で腐敗した政府に代わって住人自らが自立を模索している話。6章が、アフリカ人と共に長い努力によって産業を築いてきた日本人の話。


 新聞記者らしい内容なのだと思う。とくに前半の3つの章はアフリカの負の面が全面に出た話で、血生臭い事件がでてくるなど絶望的な状況が語られている。これに対して5、6章がプラスな面の話で、それ自体はかなり感心できるものなのだが、今だ地道な努力というレベルであって、良い話はまだこれくらいなのかとも見えてしまう。

 そういった状況は、筆者が語る内容自体にはそれほど錯誤の少ない事実なのだろうと思う。ただし、一点としての話が深い分その事実がその地域や国の現状をどこまで反映しているものなのか。自分にとっては、筆者が短絡的に一面の事実を普遍化していないか反問しながら読まざるをえないというやや肩の凝るものだった。全体として、多くの事例を集めることでバランスを取ろうとしているように見えるし、そのように評価できる部分が多いものの、全面的にはその疑問は払拭されなかった。

 それでは、これからアフリカはどうなっていくのか、解決策はあるのか、また日本人はどう関わって行くべきかということについて。5章と6章がその一つの答えという意味と思われる。特に6章に登場する日本人には深い敬意を覚えるし、5章の話に光を見ることもできる。ただ、それは政府レベルの腐敗という点では、相当に小さな光りであって国としての先行きは見えてこない。筆者があとがきで「中間レポート」というあたりは、ここら辺にあるのかもしれない。その意味では、続編を期待しておきたい。


 1章に登場するジンバブエについては、本書に登場する白人敵視政策とそれに反発した欧米諸国の経済制裁というニュースをタイムリーに読んでいたことを思い出す。当時読んでいたレポートは、農産業の崩壊による飢餓に対して経済制裁が混乱に拍車をかけていることを問題視していたように記憶している。

 以来自分は、経済制裁の効果に疑問を持っている。ジンバブエのムガベ政権は、今年の大統領選挙を強引に乗り越えていまだ健在である。ではどうするのかという答えは、残念ながら自分にも無いのだが。

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2008年10月14日

(書評)ムガル帝国時代のインド社会

世界史リブレット 111
ムガル帝国時代のインド社会
小名康之 著
ISBN978-4-634-34949-0
山川出版社 2008.8

 書名に「社会」とあるが社会史の本というわけではなく、政治から制度、経済、社会、文化まで広く扱っている。しかも最初に簡単ながら地勢と前史まで載っている。本文わずかに87ページ、参考文献3ページという量。恐ろしくコンパクトに纏めてあるという一冊。

 内容は、下記目次のよう具合であまり付け加えることがないが、政治史的としてムガル皇帝がアウランゼーブより後がほぼ出てこないことは折り込み済みだった。南部諸国への遠征やマラータとの関係などは、その中で上手く纏められていると思う。


 自分的には、ムガル帝国の最盛期までの政治史には興味があるし、イギリスの進出にも多少関心があるが、さほど深い話は知らなかった。まして絵画や建築は何かの偶然に目にしたか、現地で見たことがあるていどで、政治制度は全くわからないという程度。

 そのレベルで見て、政治史以外について知らない情報が簡潔に纏められていて、いわば教科書的によく出来ていて解り易くとても勉強になった。本シリーズの特徴でもある上欄外の用語紹介は、他に増して多いようにも見える。実用性もそれなりに押えられていると言えるだろうか。

 政治史、あるいは歴代の皇帝の名前が並ぶような王朝史という目でみると、入門書としても物足りない。しかし、ムガル帝国時代の歴史全般としてみると、実績の無い皇帝のかわりに宰相や周囲の国の王の名前を押えるなど、本のタイトルに見合ったバランスが取れているとみる。高校教科書レベルよりも詳しい内容の、ムガル帝国を中心とした16世紀から18世紀にかけてのインド史の入門書という位置づけで、手軽で有用な一冊といって良いだろう。


<目次>
  インド世界の形成
 1 中世世界からムガル帝国の確立まで
 2 ムガル帝国の支配機構
 3 ムガル時代の経済発展と首都建設
 4 ムガル時代の社会と文化
 5 ムガル帝国の衰退

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2008年10月 6日

(書評)ジャガイモのきた道

岩波新書 1134
ジャガイモのきた道
---文明・飢饉・戦争
山本紀夫 著
ISBN978-4-00-431134-8
岩波書店 2008.5
目次などがこちらから見られます

 本書は、通史的にジャガイモの歴史を綴ったというものではなく、地域にテーマ絡めた6つの章よりなり、ジャガイモの歴史や栽培、利用方法などわりと広い視点から考察したもの。

 1章では栽培種としてのジャガイモの誕生を農学、生物学的に解説し、2章でインカ帝国を中心としたアンデス地方におけるジャガイモの役割を説き、3章でヨーロッパへの栽培拡大とアイルランドの悲劇を語る。2章は、単に歴史の話だけでなく栽培技術の解説なども交えている。3章がジャガイモの歴史ものとしては、他の本でも読んだことのある展開だが、ページ数的にはさほど多くはなく概略的。

 4、5、6章は、より限定された地域での話になる。日本に触れた5章では、ジャガイモ伝来から現代までの話に触れるが、4章と6章はほぼ現代の話。4章は、ネパールのシェルパの村における生活の中で重要な位置を占めるという話。6章は、ペルーでの大きな高度差を利用したジャガイモを中心とした農業とその問題という内容。


 本書の特徴は、筆者が農学の中でも農業経営論の専門家で、フィールドワークに取り組んできたことにあると自分には思える。本書の中では、4章と6章が長期の現地調査をベースとして書かれている。

 また、筆者の主張として強調されているのが、ジャガイモでも文明を支えられるという視点。伊東俊太郎氏や江上波夫氏による、穀物生産が文明を築いたとする文章を引いて、イモでは文明は生まれないという論に異を唱えている。


 5月にジャガイモの世界史(中央公論新社)を読んだ後、もっとジャガイモの歴史的なものを読みたいと思って買ったのが本書だった。新書版200ページで、上記のように歴史的な内容は前半だけ。その点では歴史ものがまだ読み足りない。

 フィールドワークを基にした4章と6章は、歴史とは別物ながらシェルパとジャガイモという自分には全く未知のものだったこと、ペルーでの多品種を同じ畑で同時に栽培する技術がかなり驚きだったことなどとても興味深い内容だった。また、終章を「偏見をのりこえて」というタイトルをつけるなど、ジャガイモの役割の見直しを強く唱えている点について、「偏見」というほどなのかとも思うが十分に説得力があったと考える。


 ジャガイモの歴史モノはまた探さなくてはと思うが、ジャガイモの話としては全く興味深く読み終わった。旅先で読終わったのだが、その後何度かジャガイモ料理を頼み、今日の夕飯にもジャガイモを食べた。なかなか楽しい影響を残した一冊だった。

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2008年9月29日

(書評)コーカサス 国際関係の十字路

集英社新書 0452A
コーカサス 国際関係の十字路
廣瀬陽子 著
ISBN978-4-08-720452-0
集英社 2008.7
序章がこちらから読めます

 8月初め、南オセチアから始まった一連の事件からもう2か月近く。自分は、半月の旅行中に情報的不足な状況にあったこともあり、今ひとつその後の状況を掴みきれていない。

 本書がこの時期に出版されたのは偶然ではあるものの、諸々の事件を理解する上での基本情報を載せたものとして極めてタイムリーだった。内容としては、グルジア、あるいは対ロシアに限定されるものではなく、コーカサスの南北両側を範囲として、重要なキーワードを押えたて現状をできるだけ把握することを目指したものとなっている。

 構成は、下記目次のようになっているが少し書き足すと、地理、地勢などの全体像を取り上げた1章、各国が抱える問題を取り上げた2章と3章、石油、天然ガスを巡る問題を取り上げた4章、対ロシア問題と南コーカサス三国における政治情勢の変化についての5章、その他の外側の国々との関わりを説く6章となる。ほぼソ連解体以後の話で、部分的に必要なもののみ時代を遡って解説を加えている。


 新書版220ページという厚さで、かつコーカサスの南北両側を対象にしているので、深さという点ではもちろん限界がある。特に各論部分は、チェチェンを除いてはかなりあっさりという内容で、興味が向く部分では物足りなさが残る。バランスという点では、グルジアの事件以前の段階としてはこの位だろうか。

 とはいえ、コーカサス地域の情勢についての入門書という点で、コンパクトに良く纏まっていると評価したい。特に各国関係、ロシアの関わり、石油や天然ガスについての解説は自分にはかなり勉強になった。また、民族や宗教についての慎重な取り扱いや、この地域を理解する上での基礎的用語を多く解説している点も評価したい。

 もともと情報が不足している地域のこと、基本情報と簡単な現状分析を含む入門書という位置づけで重宝する一冊ではないだろうか。本書を先に読んでいれば、先のグルジアを巡る事件についてもう少しまともな分析が出来たのではと思う。というか、随分と基本的な情報を抜きにしてニュースを眺めていたものと恥ずかしくすら思う。事件後でもあり、もう少し深い情報が欲しいとも思うのだが、現状ちょっと手一杯というところ。


<目次>
 序章
 1章 コーカサス地域の特徴
 2章 南コーカサスの紛争と民族問題
 3章 北コーカサスの紛争と民族問題
 4章 天然資源と国際問題
 5章 コーカサス三国の抱える課題
 6章 欧米、トルコ、イランのアプローチ
 終章 コーカサスの今後

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2008年8月26日

(書評)世界史を書き直す 日本史を書き直す

懐徳堂ライブラリー 8
世界史を書き直す 日本史を書き直す
阪大史学の挑戦
懐徳堂記念会編
ISBN978-4-7576-0473-5
和泉書院 2008.6
目次は、上記書名リンク先を参照

 本書は、大阪大学に籍を置く(置いていた)6名の研究者がそれぞれ異なるテーマを設定して、歴史を見る上での新しい視点を示そうというもの。発売されて2か月ほど、既にAbita QurMarginal Notes & Marginaliaなどで取り上げられているが、未読本に囲まれた状況でやっと読むことができた。

 各章の内容を乱暴に要約する。イギリスの産業革命について、中国、インド、アメリカなど世界的な物の流れを見ながら捉え直そうとする1章。10世紀の敦煌での農地所有に関わる訴訟文書を読み解きながら、オアシスに暮らす人々の生活や、祁連山山麓で遊牧する人々との関わりの復元を試みた2章。世界史という広がりを説く上で、海上貿易が果たした役割をアジアを中心として概説的に問い直す3章。武士が台頭した時代という中世像に疑義を示し、神仏習合を中心に宗教パワーを問い直すことで新しい像を示そうとする4章。17世紀に相次いで生まれた清朝と江戸幕府という二つの軍事政権について、その類似性を検証しながら両国の新しい歴史像の提示を試みる5章。19世紀後半から20世紀初めにかけての全盛期イギリス帝国像を政治、経済、軍事などの特徴的な部分を絞りながら、アジア、特に日本との関わり方を捉え直そうとする6章。


 6つの内容は、日本だけを扱ったものが1つ、日本も関わる世界史が3つ、日本が出てこないもの2つという組み合わせで、全体としては時間的空間的な網羅性も特異性もない。文章などの体裁も著者の個性そのままという感じでばらつきがあるが、それが悪いとは思わなかった。新しい視点を提示するという抽象的な企画に、意欲的な文章をオムニバス的に集めたという一冊と見る。

 対象として一般読者が強く意識されたもので、素材的に多少とも難のあるものを、いかにして読み易く纏めるかという工夫が読み取れる。その工夫の仕方もそれぞれ。特に個性的なのが、「帰ってきた男」というタイトルからして思わせぶりな2章。訴訟文書という論文として書かれれば文章読解か類例比較で終わりそうな素材を、想像を膨らませてストーリーを組み上げている。それでいて、実証的な世界からさほど外れていないというなかなかの力作に見える。


 書名からして意図的だが、6章で230頁という量も力まずに読める厚さを意図して絞ったものと思われる。また、オムニバス的とはいえ各章が結構面白かったので、それほどバラバラという印象は残らなかった。

 扱っている時空は結構広いので、章によっては自分の守備範囲をかなり越えている。イギリスが関わる1章と6章、中世日本を扱った4章が特にそうだが、さほど大袈裟な印象は受けないものの、限られた頁数に納める為に単純化している可能性は残るので、機会と時間があればより詳しい本に当たってみたい。

 とはいえ、意図に見合った面白い一冊という評価でどうだろう。歴史好きな者にとってより視野を広げる為の素材として、お薦めめできる一冊と思う。

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