(書評)倭国大乱と日本海
市民の考古学5
倭国大乱と日本海
甘粕健 編
ISBN978-4-88621-454-6
同成社 2008.10
考古学的に古代日本の日本海側という内容に惹かれて買ってみた。図版が多いので専門性の高い概説書と思っていた。前書きによれば、本書は2007年に新潟市歴史博物館で4回にわたって行なわれた講演会の記録とのころ。その4回が、本書の1章から4章に対応しているおり、その4つは下記のとおり。従って、本書は書き起こされたものではなくて、テープを起こして編集したものとのこと。
内容は、弥生時代から古墳時代についてのもので、出雲から越後までを考古学的な特徴から4エリアに分けている。各担当者によって、古墳や集落の遺跡とそれに関連する出土物などからそれぞれの地域の特徴などが解説され、さらに歴史的な解釈が加えられている。
もう少し具体的な内容としては、四隅突出型墳丘墓についてや高地性集落についての詳しい解説、墳墓・古墳の出現状況や高地性集落の分布範囲の解説があり、4エリアにはわりと明確な違いがあるとのこと。出雲と丹後の違い、あるいは出雲と越前の関係といった点はとくに興味深かった。また、その流れは会津にも及んでいるとのこと。
自分的には、四隅突出という名前とその出雲地方における特異性を聞いたことがある程度だったので、本書はかなり新鮮なものとして読んだ。四隅突出型墳墓の出現過程についての仮説、北陸地方における高地性集落の分布が新潟県まで広がっていること、またその具体的な遺跡の紹介。さらに、新潟地方と会津との関係、北海道との関係が示唆される遺跡が新潟に分布しているといった点は特に興味深いものだった。
また、考古学から歴史を復元するという試みが語られている。日本海に沿っての展開や高地性集落の意義、大和朝廷の拡大など関連するテーマは沢山あり、それぞれの担当者が個々に仮説を展開されている。その中には、なるほどと思われるものもあるが、やや想像を膨らませて語り過ぎと思わせるものも含まれている。ただし、それは本書の企画として許容したものの内ということのようだが、考古学から歴史を復元する難しさの一端が見えたようにも思う。
このシリーズについて、自分が読むのは本書が初めてなのだが、「市民の考古学」とあるように一般向けに考古学を興味深く解説するという意図が十分に伝わっているように思う。本文140ページあまりとさほど厚くはないものの、内容はその割に豊かで十分に興味深いものだった。細かいことだが、遺跡についての図版は沢山収録されているが、関係する地名を紹介する広域の地図がもう少し必要だったのではと思う。
<目次>(主題と担当者のみ)
1. 四隅突出型墳丘墓と出雲世界
渡辺貞幸
2. 弥生・古墳時代前期の丹後地方
石部正志
3. 弥生・古墳時代前期の越前・越中
橋本澄夫
4. 越後・会津の情勢
甘粕健
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